Column

3年生座談会 都立総合工科高等学校(東京)「野球の神様が降りてきた夏」【Vol.3】

2017.12.09

 この夏の西東京大会は高校通算111本塁打の清宮幸太郎のラストサマーが注目を集める中、都立高校が私学の強豪校に挑む姿は大きな感動を呼んだ。この大会で大きな印象を残したのが都立総合工科だろう。有馬信夫監督が「いつも弱い弱いといいますけど、今年は最弱」というチームが、いかに日大三に競り合いを演じるチームになったのだろうか。今回は中心選手たちに話を聞いた。

 最終回では、注目の日大三戦を振り返っていきます。あの場面、選手はこう考えた!そして最後に3年生たちに、高校野球の思いを語っていただきました。

<メンバー>
小島巧:捕手として、主将としてチームをまとめた
大河内輝也:日大三戦で先発した右サイドハンド、シンカーがウリ
棚橋明博:逆方向への流し打ちを得意とする右打者
石川幸之介:チーム一の長打力を持ち、主砲として活躍
大場朋:左のエースとして活躍
小野里剛:バットコントロールの良さはチーム一の左打者

戦えると手ごたえをつかんだ序盤戦

3年生座談会 都立総合工科高等学校(東京)「野球の神様が降りてきた夏」【Vol.3】 | 高校野球ドットコム

都立総合工科

――日大三戦を迎えて、金成麗生君が先発でした。

小島:でかかったですし、かなり速かったですね。

――速いといいますけど、石川君、ヒット打っていますね!

石川:全然曲がらないカーブがきましてそれを狙い撃ちして打つことができました!早めに降板してしまいましたけど、もう少し投げてくれと思いました。

――いきなり初回、2点を先制しました。

小島:こんなに簡単に点を取れると思っていなかったので、驚きました。

――そして先発マウンドに登った大河内君。日大三打線に対し、どう抑えようと思ったのでしょうか?

小島:大河内はボールが手元で動くので、それを有効活用しようと思いました。気を付けたのは同じコースに同じボールを続けないこと。構えるときに気を付けたことは厳しいゾーンに構えること。そのまま構えていたら、甘いコースが真ん中に集まりやすい。だからボールになってもいいから厳しいコースに構えることを意識しました。不用意にストライクを取りにいかないことを気を付けました。

大河内:四球になってもいいからぎりぎりに狙いましたね。

――そして1回で、櫻井周斗君を迎えましたけど、どうでしたか?

大河内:怖かったですね。でもツーシームで三振を取ることができて、いけるじゃないか?と思いましたね。

小島:あまりタイミングが合っていなかったよね。

――4番金成君に対してはどういう配球を?

大河内:金成は自分の投球に対して、全くタイミングが合っていなかったですね。金成には決め球のシンカーで打ち取りにいきましたね。

小島:大河内のシンカーはストレートとあまり球速差がないのが良いところですね。ストレートは120キロぐらいですけど、シンカーも110キロなので。そして手元で変化するので、打ちにくいと思います。でもいつ捕まるか分からなくて、やれることを尽くして打たれたらしょうがないと思ってリードしました。

[page_break:やっぱり櫻井周斗はすごかった!]

やっぱり櫻井周斗はすごかった!

――そして5回途中から櫻井君が出てきました。

小島:日大三の投手はみんな140キロ出ていて、変化球も良いんですけど、櫻井は次元が違いましたね。

石川:僕は縦スライダーに空振り三振でしたけど、スライダーは消えますね。はっきりいいます。打つのは無理です!

小島:空振りしてからスライダーって気づくよね。ストレートだと思って振ったら、スライダーでしたね。

石川:そうそう。めっちゃ落ちてね!という感覚。

――そして5回裏、櫻井君、フェンス直撃の適時三塁打を打たれる。

小島:あれはあの試合で唯一、甘いシンカーでしたね。でも、金成をシンカーで空振り三振に打ち取れて、珍しく大河内のガッツポーズを見ることができました(笑)

大河内:あれは自然に出ちゃいましたね。

――そして6回表、櫻井君は棚橋君に対して、147キロ!

小島:めっちゃ速かったですね。ベンチでみんな速え!って言っていましたから。

棚橋:ストレート狙っていたんですけど、タイミングを早くしても振り遅れますね。

小島:ストレート待って、その狙い通りにストレートがきたんですけど、どうしても遅れてしまう。あんな経験は初めてでしたね。金成、2番手の中村奎太と比べるとボールの伸びが全く違いましたね。

――そんな中、8回表、石川君、櫻井君からもヒット打ちますね!

石川:打っちゃいましたね(笑)高めのスライダーだったんですけど、この時、あまり落ちなかったんですよ。だから何とか打ち返すことができました。でも、みんな思っていると思うんですけど、ずっと金成が投げていればよかったと思います。

――試合は8回裏、スクイズで勝ち越しを許してしまいます。

小島:試合展開的にスクイズはあるなと思いました。初球、変化球から入って、ボール先行になったんです。変に外してもよくないですし、ストライクも取りにいくと、日大三は打てるから、怖い。だったら、インコースで詰まらせようと思いまして。そしたらスクイズでした。

――このスクイズで勝ち越し点となり、敗れました。しかし、スクイズまでしないと勝てない。そこまで日大三を追い込んだのは立派だと思います。

大河内:でも負けてしまったので、やっぱり悔しいですね。

小島:防げる失点もあったんで、それは悔しかったです。でもピンチの場面でもよいプレーが出ていたのは良かったと思います。試合が終わって、夏が終わった実感はないですね。まだまだ終わっていない感じがしました。

[page_break:高校野球を終えて実感したこと]

高校野球を終えて実感したこと

――3年間やってきましたけど、思い出に残っていることは何でしょうか?

小島:朝7時から練習をやるのですが、ほぼ休みがなくて、最初の夏休みは、有馬先生の怒鳴り声をずっと聞いていたのが思い出ですね(笑)あとは8月の半ばにあった大島合宿ですね。大島にはいくつか、球場があり、そこの行き来がランニングだったのが本当に大変でした!

石川:室内練習場もあるのですが、蒸していて、そこでやるティーが一番きつかったですね。

――いろいろあった3年間だったですね。高校野球を終えて、学びになったことを語っていただければと思います。

石川:高校野球は大人になるためにいろいろなことを学びました。有馬先生だったからこそいろいろ学ぶことができました。

大場:野球以外のこともいろいろ教わることができましたね。それまでの自分と比べると、精神的に強くなったと思いますね。

小野里:楽しかったですね。自分は野球はこれで終わりで、就職しますので、良い集大成だったなといえる3年間だったと思います。メンタル面ではビシバシと教育を受けて強くなったと思いますし、感謝しています。

大河内:自分はもともと入ってきてさぼりがちだったというか、さぼっていました。3年間、つらかったですし、朝早かったですし、帰りも夜遅かったですし、だけれど、良い経験になったと思います。一度辞めたいといったことがあるんですけど、両親に引き留められて。本当に続けられてよかったと思います。続けられたからこそ、夏で日大三を3失点に抑えた経験は僕にとって大きな財産になりました。

棚橋:有馬先生から社会に出るのに必要なことを教えてくれたので、野球だけじゃなく、本当に社会で通用する人間になるには、どうすればいいか、それを学ばさせていただき、良い経験をさせてもらったと思います。

――では最後にキャプテンで締めていただきましょう。

小島:キャプテンをやらせてもらい、大変なことが多かったですけど、その分、人としても選手としても成長できたことと実感できます。有馬先生は、社会に出ても通用する人間を育てることを指導方針で、野球はその手段といっていましたが、高校野球3年間は有馬先生の言葉通りだなと感じています。

 有馬監督は、このチームの良さのことを「仲間を尊重しあえる」ことだという。
「確かに最初は弱かった。辞めたいという選手もいました。精神的にも弱いチーム。だけれど、最終的には仲間思いで、チームのために動ける選手が、レギュラーにも、控えにも出てきました。彼らより素質のあるチームはありましたけど、仲間を思いやる心は強かったチームかもしれません。だけど、強いチームになるためには必要不可欠なんですよね。今年の選手たちは最後の夏になってその気持ちが出てきた。チームのために行動できる3年生だった。そういう姿勢が数々の逆転劇を呼び込んだのかな」

 仲間を思いやる、人を傷付けない。これは有馬監督が大事にしている信念だ。同校のOBで今年8勝3敗を挙げ、大ブレイクした石川柊太投手(現・福岡ソフトバンク)も「アスリートとしては変わったところがある選手ですけど、いろんな人に好かれ、仲良くなれる素質がある」と評した。

 そういうチームだったからこそ、夏は2度の逆転勝利。そして日大三に競ることができたのだろう。仲間思いの総合工科ナインに野球の神様が降りてきたのであった。

(構成/河嶋宗一

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【僕らの熱い夏2017 特設ページ】

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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