Column

夏の終わりにベースボールライター・小関順二氏が振り返る『PL学園の軌跡』

2016.08.22

 今年の夏の甲子園も昨日で幕を閉じたが、この夏は様々なドラマがあり、また涙もあった。
その中でも地区大会中に大きな注目を集めたのが、今夏で休部を発表していたPL学園の勝ち上がりだった。その大阪大会では惜しくも、初戦で敗退。高校野球ファンたちにとっても、寂しいニュースとなった。今回、高校野球の夏の終わりとともに、ベースボールライター・小関順二氏に、PL学園のヒストリーを特別に寄稿いただいた。

多くのプロ野球選手を輩出した功績

中村 順司元監督

 これほどの強豪校が、と情緒的に嘆いても、時間が経過すればPL学園野球部の名前は次第に忘れられていくだろう。「1977年度卒から2001年卒までの25年間、すべての代からプロ野球選手が輩出されているんだよ」と言っても、「またまた、話を盛るんだから」と笑われるのが関の山である。横浜高校ですらプロへ進んだ代が5年以上続いたことはないのだから。

 15年以上前、雑誌の仕事で中村 順司・元PL学園野球部監督を取材したことがあり、その流れでOBのプロ入りを丹念にたどり、77~01年まですべての代がプロ入りしたことを知った。元プロが多いのは知っていたが、まさか25年とは。

 プロ野球の世界では王 貞治(元巨人)の通算868本塁打、金田 正一(元国鉄、巨人)の通算400勝、福本 豊(元阪急)の通算1065盗塁が不世出の大記録と言われているが、PL学園の「25年間プロ野球選手を輩出」は高校野球界のアンタッチャブルレコードと言ってもいい。

 PL学園が高校野球界のナンバーワンになる70年代以前、トップに君臨していたのは中京商(現在の中京大中京)である。1931~33年の夏の大会3連覇は現在まで続く最長記録で、甲子園大会の春夏通算133勝もモンスターレコードである。ただ、PL学園と比べるとプロに進んだ顔ぶれが寂しい。近年では稲葉 篤紀(元ヤクルト、日本ハム<関連記事>)が有名だが、それ以前では杉浦 清野口 二郎野口 明鬼頭 数雄など有名選手は戦前にかたよる。中京大中京に問題があるのではない。PL学園が凄すぎるのだ。

[page_break:PL学園OBでもしもチームを作ったらどんな顔ぶれになる?]

PL学園OBでもしもチームを作ったらどんな顔ぶれになる?

前田 健太(ドジャース)

 戯れに、PL学園OBでピックアップチームを作ってみた。候補者は次の選手たちだ。

■捕手:木戸 克彦(元阪神)
■一塁手:加藤 英司(元阪急など)、清原 和博(元西武など)、小早川 毅彦(元広島)
■二塁手:今岡 誠(元阪神)
■三塁手:片岡 篤史(元日本ハムなど)、今江 敏晃(楽天)
■遊撃手:立浪 和義(元中日)、宮本 慎也(元ヤクルト)、松井 稼頭央(楽天)
■外野手:中塚 政幸(元大洋)、新井 宏昌(元近鉄など)、吉村 禎章(元巨人)、坪井 智哉(元阪神など)、サブロー(ロッテ)、福留 孝介(阪神)
■投手:新美 敏(元日本ハムなど)、尾花 高夫(元ヤクルトなど)、桑田 真澄(元巨人)、野村 弘樹(元横浜など)、前田 健太(ドジャース)

 打順を組めばこんなふうになる。
(遊)立浪、(中)新井、(右)福留、(一)清原、(左)吉村、(二)今岡、(三)今江、(捕)木戸、(投)桑田

 2000安打以上の加藤英、松井稼、宮本でも控えに回ってしまう。こんな学校はPL学園だけである。

 指導者にとって最も難しい「ゲームに勝って、選手も育成する」を成し遂げた最功労者が1980~98年までの19年間、PL学園の監督として采配を振るった中村 順司だ。
「大学や社会人でやるために技を磨くというのはあったのかもしれないけど、最終的には上(プロ)でやるんだろう、と。精神的な面も鍛えたつもりです」

 これは以前、私が進行役を担当した企画で、高嶋 仁・智弁和歌山監督との対談で語られた言葉で、ここにPL学園の特徴がよく表れている。プロをめざし、それがダメだったら大学、社会人野球で名を上げる、そういうモチベーションが各年代に浸透していたのである。

 驚かされるのはPL学園野球部が消滅しかかっている現在でも、PL学園卒業者はドラフト候補として頑張っている。中川 圭太(東洋大2年・内野手)、中山 悠輝(東京ガス・遊撃手)たちだ。走攻守3拍子が揃い、スケールも失わないという先輩たちの伝統が彼らにしっかりと受け継がれている。そしてこの伝統は、今年の3年生たちにも備わっていた。

[page_break:PL学園野球部の幕引き]

PL学園野球部の幕引き

休部となったPL学園

 今夏、7月15日の大阪大会2回戦東大阪大柏原戦に出場したのは3年生だけで、出場可能な選手はわずか9人だった。中村監督が勇退した1998年春以降、PL学園の監督を引き継いで横浜高との延長17回も指揮した河野 有道氏に話を聞くと、中学時代有名だった選手は1人もいないという。それでも強豪校の東大阪大柏原をあわや逆転という6対7まで迫っているのである。

 無名だった彼らの動きは試合前のシートノックでも目立っていた。窮屈に捕球して、窮屈にスローイングするというのが弱いチームに多く見られる内野手の特徴だが、PL学園の各内野手はゆったりと大きくボールを追って、球際を小さなステップで合わせて捕球し、ゆったりと大きいスローイングをしていた。

 河野氏に「中学時代無名だった彼らにどうしてあんな動きができるんですか」と聞くと、「PLの伝統としか言いようがないです」と言う。輝かしいOBが日参して練習の面倒を見ていたわけではない。しかし、彼らの目には映像などで残されている先輩たちの一挙手一投足が焼きついている。それがプレーにしっかりと反映されていたのである。

 そして、このシートノックを受けたのは内野手だけだった。外野に選手を配置しようと思っても、前日の練習中の故障で選手が負傷していたので選手がいなかった。この光景は形容するのが難しい。

 東大阪大柏原戦の敗戦により、PL学園野球部はとりあえず幕を下ろした。第2幕がのちに上がるのかは誰にもわからない。

(文=小関 順二


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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