市立尼崎は今夏、なぜ強かったのか?今日も八戸光星に延長戦の激闘!
市立尼崎は今夏、なぜ強かったのか?
平林 弘人(市立尼崎)
今夏の前評判はけっして高くはなかった。
昨秋の県大会は3回戦、春は2回戦敗退。第2シードとして迎えた夏ではあったが、優勝候補という位置づけではなかった。
しかし、いざ大会が開幕すると、好投手を擁するセンバツ出場校や強豪私立を接戦の末に次々と下し、2004年以来、12年ぶりとなるファイナル進出。決勝で相まみえたのはセンバツ8強の明石商だったが、8年ぶりとなる兵庫の公立決戦を1点差で制し、162チームがしのぎを削る激戦区兵庫の頂点に駆け上がった。
市立尼崎の甲子園出場は1983年夏以来、実に33年ぶり、2回目。今年、市制100周年を迎えた尼崎市を祝うかのような快挙に市民は大いに沸いた。
兵庫大会を振り返った時に、大きなポイントとして挙げられるのは引き分け再試合となった5回戦の西宮今津戦だ。失点が即、敗戦につながってしまう極限の状況を幾度も乗り切る中で、蓄積する疲労に反比例するかのような逞しさを身につけていった市立尼崎ナイン。5回戦から決勝までの4試合中、3試合が1点差勝利。2日に渡る激戦をものにした自信が、終盤の戦いにプラスの影響をもたらしたことはスタンドレベルで観戦していても明らかだった。
躍進の大きな原動力となったのは、西宮今津との2日にわたる決戦で14イニングを投げ、準々決勝以降は3試合連続完投勝利(1完封)をマークしたエース・平林弘人だ。6月に入ってからは、週末の練習試合に2日続けて登板し、大会本番の連投に備えてきた成果を存分に発揮した。大会終盤はさすがに疲労の色が濃かったが、気持ちでカバー。決勝では投手返しの打球をみぞおちに受けたが、最後までマウンドを譲らなかった。伸びのある最速140キロのストレートを軸に切れ味鋭いスライダー、チェンジアップを織り交ぜた、テンポのいい投球はストライク率が高く、良いリズムをチームに与え続けたことが、堅いディフェンス力をさらに後押しした。
攻撃面においては積極的な走塁、そして三盗の精度の高さが目に付いた。準々決勝では三盗で作った一死三塁の好機に敢行したスクイズが決勝点となり、好投手を擁する報徳学園を1対0で退けた。
調整面の大きな変化としては、現チームより本格的にウエイト・トレーニングを導入したことで故障者が激減。総体的なパワーはもちろん、脚力の向上につなげた点も見逃せない。
金刃 憲人(楽天)、宮西 尚生(日本ハム)を輩出するなど、育成力に定評のあるプロ出身の竹本 修監督の指導方針は「指導者側から一方的に教えすぎない」「選手たちに考えさせる」。発する言葉に力があり、プロの世界を垣間見た者ならではの引き出しも備えている。選手たちに様々な気づきを与える術に長けた指導者だ。
兵庫大会開幕を1か月後に控えた今年の6月、主将の前田 大輝に抱負を訊ねたところ次のような答えが返ってきた。
「たとえ負けたとしても、『やってきたことは全部出し切った』と思えるような夏にしたい」
この言葉が完全実行されたことは市立尼崎の真夏の戦いを目撃した高校野球ファンならばご存じだろう。その結果、市立尼崎は無敗のまま兵庫大会を駆け抜けた。
舞台を甲子園に移しても、戦いに臨む姿勢は変わらない。
そして、9日の第1試合。33年ぶりの甲子園勝利を目指した市立尼崎だったが、八戸学院光星相手に激闘!市立尼崎は、2対4と2点差を追う9回裏に、連打で1点を返すと、続く一死三塁の場面で、9番・殿谷小次郎の犠飛で同点に追いつく!試合は今大会初の延長戦に突入。
しかし、延長10回に、八戸学院光星が二死満塁から、最後は田城が適時打を放って1点を勝ち越し。その裏、市立尼崎は反撃ならず、4対5で敗戦となった。
それでも、甲子園常連校相手に市立尼崎が兵庫大会からここまで繰り広げてきた激闘の数々は、まさに記憶に残るチームとして語り継がれていくはずだ。今後の市立尼崎の戦いにも注目していきたい。
(文=服部 健太郎)
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