「本気」の体験をしてほしい 西村 慎太郎監督(西日本短大付属)vol.3
「今の世の中って失敗したらもうダメじゃないですか、 僕らの時なんか失敗して小突かれてずっと大きくなりましたけど。今は失敗したらダメなんで、それは本当に窮屈で可哀相な時代だなあとは思うんです」
西村 慎太郎監督(西日本短大附属)の言葉である。だからこそ、西村監督は高校時代に野球を通して成功と失敗を経験してほしいと言う。それは、長い目で見ると、やがて選手が卒業して社会に出た時の貴重な経験になるからである。選手を第一に考える西村監督らしい言葉である。
今回のコラムでは、西村監督が考える「体験」の必要性を考察したい。
本気でやって成功・失敗の体験をしてほしい
西村慎太郎監督
西村監督が、まず求めることは本気で行動することである。
「本気でやっても成果に結びつけたり、成功する可能性って低いじゃないですか。でも高校生の時代は、これぐらいやったけどうまくいかなかった、もしくはうまくいった、の両方を体験してくれたら最高だなと思います」
「これだけやった、それが自分の描いた方向に叶えば自信になります。うまくいかなければ、また自分を高めていく方法を変えたり、うまくいくために自分の色んな能力を上げていく」
どのような結果になっても本気を経験することで、選手自身に得られるものがある。
一方、中途半端は勘違いを引き起こす。
「中途半端に行ってうまくいかないことは当たり前だと思うんですよね。だけど中途半端にやって、逆に勝っちゃうと勘違いします。野球は、勘違いしやすいスポーツです」
勘違いは、成長のチャンスを潰してしまう。だからこそ西村監督は、縁があって2年半を一緒に過ごす選手には、本気での行動を求める。
「挫折というが、うまくいかないことが挫折とは僕は思わない」
これこそが、西村監督の真意である。高校野球で過ごす期間は、本気でやれば挫折はない。どのような結果でも得られることはあるのである。
[page_break:高校野球は頂点に立てるのは1校しかない]高校野球は頂点に立てるのは1校しかない
西日本短大附のグランド
「高校野球って、好きな事をこれだけやって、うまくいかないことの方がほとんどです。各県に一校しか[stadium]甲子園[/stadium]に行けないんですから。[stadium]甲子園[/stadium]に行っても優勝でないと負けちゃうんです。これだけ好きなことを自信があることをみんなでやって、うまくいかなかったら切り替えるしかないですよ。
中途半端に行っちゃうと、『あの監督じゃなかったら』『あのチームじゃなかったら』『俺が違う高校に入ってたら行けるかもしれない』じゃないですよ。これだけやったけどうまくいかなかった、これだけの仲間がいた、これだけみんなでやってうまくいかなかった。だから、次へ切り替えて勉強して自分の人生、違うところで勝負しようなど、次の成長を考えるきっかけもなると思うんですよね」
西村監督は、「高校野球で夏の頂点に立てるのは1校だが、敗戦は挫折ではない」と話してくれた。本気で取り組むことで、その経験を成功に出来るのである。
「敗戦が失敗かと言うと、成功につながってるんですね。若い時に皆さんが、勉強でもスポーツでも、こんだけやったけどというのが今の支えだと思うんですよ。それを高校時代で経験させたい」
教育者としての西村監督の想いである。
一瞬の成功体験を見逃さない
西村健太郎監督
本気で高校野球に向かい合っている選手に対して、西村監督も本気で答えている。
「練習の中にも褒められるべき行動がいっぱい落ちています。例えばですよ、最後にグランド10周を競争で走りました。いつも厳しい先輩が一番で帰ってきて、次の2番で帰ってきたのが後輩だったとします。その後輩にタンクから水入れて、自分が最初に着いているにもかからず、後輩が着いた瞬間にコップを渡すとか、いっぱい良い光景って落ちているんですよ。だから僕はそんな瞬間を見るために休まずに練習についてるんです」
西村監督は、一瞬の出来事を見逃さないためにも、出来る限り練習を見ているのである。
もちろん、見るだけではない。その行動を、適切なタイミングで本人に伝えるのである。伝えることで、選手も、どの行動が褒められるのか、認められるのかを理解して、その後も真似して行動してくれるのである。
先輩の行動はやがては伝統になり、長い目で見るとチーム力の向上に繋がる。
「[stadium]甲子園[/stadium]に行くことは簡単なことではないんで、一つの結果として素晴らしいことです。ただ練習にも素晴らしいことは沢山落ちているんです」
本気でやること、それに本気で向かい合うこと。そして、成功体験をなるべく拾ってあげること。
「本気」、この言葉に西村監督の教育者としての根っこを見た気がする。
文=田中 実