情報科学vs知念
後藤(情報科学)
内川一寛の意地
情報科学・内川一寛監督が満面の笑みを浮かべて言った。
「向こうは移籍初年度に、2位に大差をつけての首位打者を獲得。負けたくないよね」
もちろん“向こう”とは内川監督の長男・聖一(ソフトバンク)を指している。
息子・聖一は今季、横浜からFA移籍でソフトバンクに移籍し、史上2人目となる両リーグ首位打者を獲得。パ・リーグ連覇の大立役者となった。
この数年で日本球界のトップ選手に成長した息子の活躍は嬉しくもあり、同時に自身を奮い立たせる最高のライバルでもあると父・内川監督は言うのだ。
「一時期、野球の現場を離れている時期がありました。あの当時はもうユニフォームに袖を通すことはないかもしれないとさえ考えましたね。でも、セ・リーグ首位打者となってWBCの日本代表に選ばれるなど、活躍する息子の姿を見ていたら、こちらの情熱も蘇ってきたんですよ」
今秋、情報科学を28季ぶり2度目の九州大会へ導いた内川監督は「ウチは弱いと言われ続けたチーム。それでも情報科学という学校の歴史に、新しい1ページを刻むことができたと思います」と、涙ながらに語っていた。
周囲の低調な評価への意地である。
内川一寛監督(情報科学)
主催県の第一代表としても負けられなかった。情報科学は県代表4校の大トリとして登場したが、ここまで他の3代表はすべて初戦を突破。情報科学と同じ時間帯で試合をしていた大分の勝利は、試合序盤の場内アナウンスで知ることとなる。
「ウチが得点のチャンスを潰した直後に、あのアナウンスで大歓声でしょ。そりゃ圧し掛かりましたよ」
沖縄の知念を7-0で退け、試合後の取材を受けているところへ、内川監督の“最大のライバル”が駆け寄ってきた。
息子・聖一と固い握手を交わした父・一寛。
互いが成し遂げた2011年の壮挙に対して、ふた言、三言と言葉を掛け合うと、息子は来るべきクライマックス・シリーズへの調整のために、宮崎へと向かった。
その後姿を細めた目で見つめる指揮官の負けん気に、再び火がついたようだ。
「ひとりの野球人として見たら、そりゃ立派なものだと思いますよ。でも、いい加減『ソフトバンク・内川選手の父親』ではなく、『情報科学・内川監督の息子』なんだと言わせなきゃ」
これから親子ともに迎える秋の大一番。父も息子も、意地でも負けられない。
(文=加来慶祐)