倉敷商vs石見智翠館
長安諒己(倉敷商)
試合を決めたのは守備の男
試合を決めたのは守備の男だった-。
7回裏、石見智翠館の2番・深江裕樹が中前適時打を放ち、1点差に追い上げると倉敷商としてはさらにピンチが続いていた。そして倉敷商の森光淳郎監督から「試合の後半からいくぞ」といわれ、6回から一塁側ベンチ横でキャッチボールしていた背番号8がセンターのポジションに走っていった。
結果、そのピンチで代打・橋本恭太朗に右前適時打を打たれ、同点に追いつかれたが、守備固めとして出場した背番号8が、その後、試合を決める一撃を打つことを誰が予想したことであろうか。
その背番号8とは、長安諒己である。
長安は、昨夏の甲子園も経験している選手だが、同じ外野手の安藤悠や坂田純一らの台頭もあって、今春の県大会では2回戦の関西戦以外はすべてベンチスタートであった。
試合に出たとしても試合後半に守備固めとして出場することがほとんどであった。
そんな長安にこの試合、打席が回ってきた。同点で迎えた9回表、無死満塁の場面である。まず、初球にスクイズを試みたが、相手の球が高めに浮いて空振り。しかし、その直後、真ん中に入ってきたカーブを見事にとらえ、ジャストミート。
自ら「無心で打ちました」という鋭い打球は右中間を破り走者一掃の3点適時三塁打となった。三塁ベース上では、長安が満面の笑みでベンチの方に目をやり、自然とガッツポーズも出た。
そして8番・藤井勝利の犠飛でホームインに戻ってきた長安にベンチで迎えたナインは、最高の笑顔でハイタッチを繰り返した。
「ずっとベンチスタートだったので一打席、一打席が勝負だと思っていました。本当に今日はこみ上げてくるものがありました」(長安)
森光監督が「守備が一番うまい」という守備の男が、自らの課題であったバッティングでチームの勝利に貢献したのだ。選手がそれぞれに与えられた以上の役割を果たしている倉敷商。さすが夏の岡山大会3連覇中だけあって、ここ一番での勝負根性は本物だ。
(文=アストロ)