肘痛・しびれと肘部管症候群
肘部管症候群の特徴を理解し、肘や手指の痛みやしびれがあるときは早めに医療機関を受診しよう
投手によく見られる肘のスポーツ傷害の一つに肘部管(ちゅうぶかん)症候群があります。肘部管とは、肘関節付近にある神経の通り道にあたりますが、この部分を通る尺骨(しゃっこつ)神経が何らかの外力によって圧迫されたり、伸ばされたりすると、肘の痛みやしびれ感、薬指や小指の感覚が鈍くなるといったものが見られるようになります。子供の頃の肘骨折による変形や、ガングリオン(脂肪のかたまり)などによるものもありますが、投球動作のコッキング期では肘を曲げたときに尺骨神経が圧迫され、フォロースルー期では肘を伸ばすときに尺骨神経が牽引されるために、特に投手は肘部管症候群になりやすいと言われています。変化球などで過剰にひねり動作が加わることもその一因と考えられます。
最初の頃は薬指や小指に違和感やしびれが現れ、肘を曲げるとその症状が強くなります。また肘関節の内側をたたくと前腕~小指側にかけてのしびれによる放散痛が見られます(ティネル徴候)。さらに進行すると薬指と小指の筋力が衰え、筋力低下により親指と人差し指でものをつかむ動作がむずかしくなります。これは手の細かな筋肉の大部分が尺骨神経の支配領域であるからです。重度の慢性的な肘部管症候群は、筋肉の萎縮(いしゅく)や、手のかぎ爪状の変形(指先が曲がった状態になる)を引き起こすことがあります。肘がだるくて思うように腕が振れない、指先に力が入らずにボールがすっぽ抜けるといったことも肘部管症候群による影響が考えられます。
肘の痛みやしびれ、薬指・小指の感覚がおかしいと感じるときは、早めに医療機関を受診するようにしましょう。肘部管症候群の場合、肘を曲げた状態での強い負荷が尺骨神経を圧迫するため、しばらく投球動作は中止して尺骨神経を刺激しないようにします。その上で尺骨神経を圧迫しないように前腕筋群や肘周辺部のストレッチを行って硬くなった筋肉をほぐすことも大切です。医療機関では神経の炎症を抑えるための薬(ビタミンB群)などが処方されることもあります。この他にも投球フォームによる肘への負担が尺骨神経の圧迫を強めることもあるため、肘が過度に外旋されないように下半身を使ったフォーム(手投げにならない)を身につけて、肘への負担を軽減することも大切です。
しばらく経過観察をしても改善が見られない場合は、手術によって神経を圧迫している部位を切離したり、神経の走行を前方へと移動させたりといった治療を行うこともあります。神経障害は皮膚や筋肉に比べると回復するのに時間を要するものですので、焦らずにできることを行うこと、患部以外の筋力や柔軟性などが衰えないようにトレーニングを継続することなどを心がけて競技復帰を目指しましょう。
文:西村 典子
球児必見の「セルフコンディショニングのススメ」も好評連載中!