甲南vs宝塚東
14対0の5回コールド勝ち。圧勝の後できれいに並べられた野球道具
完封勝利を収めた甲南の先発・竹田昇真
ベンチ入り人数11人。戦力的に苦戦が予想される宝塚東にとって先取点は勝利への絶対条件だった。
初回、1番・辻篤武(2年)がセンター前にきれいなヒットを放ち番狂わせを予感させたが、2番・塚本晃大(2年)がサードへのファールフライでバント失敗。ならばと辻がスタートを切るが盗塁失敗。
先制のチャンスを逃すとその裏、先発・小濱英資(3年)が兵庫甲南打線に痛打を浴びいきなり3失点。その後も回を追うごとに点差は開いていった。
そんな中、攻撃に向かう前の円陣では4番・キャッチャーでキャプテンの田嶋正樹(3年)が「積極的に行こう」と声をかけていた。
エース・小濱は2回で早くも5安打を浴びていたが全てがクリーンヒットだったわけではない。右中間寄りに落ちたライト前ヒットはライトが躊躇せず捕球を試みていれば十分捕れる可能性があった。ライナー性の打球ではなく、センターがカバーに来ていることも踏まえれば捕れなくても長打になるとは考えにくい。グラウンド上の動き全てがよく見えるからこそもどかしく感じていたのだろう。
小濱は最後までマウンドに立ち続けたが、4回には5者連続で四死球を与えるなど悔しい結果となってしまった。
一方の兵庫甲南の先発・竹田昇真(3年)は5回3安打で完封勝利。ただ調子はあまり良くなかったという。
「変化球も入ってなかったし、手投げになってフォーム的にも問題あったので」竹田は故障のため投げられない時期が続いたが1年時からベンチ入りするなど監督の期待は大きい。次戦に向けては「今日の課題を修正して次はしっかり冬の成果出せるようにやっていきたいです」と前を向く。
攻撃面では、イニング数の2倍以上に当たる9安打を放ったことに加えて2つのディレードスチールを含む計6盗塁を決めた。しかし実は、岡山監督は1度も盗塁のサインを出していない。いつ行くか、行くなら普通の盗塁かディレードか。それらは全て選手が自ら考えて判断したもの。
このスタイルは岡山監督の指導方針が大きく関係している。監督に言われなくても自分達で気づき、考え、動けるチームが理想。そのため守備から攻撃に移る時の円陣に監督は加わらず、試合後のミーティングも選手だけで行う。
きれいに並べられた甲南の道具
「言いたいことはありますけど、こいつらもわかるし気づくし誰かが言う。もう僕のとこには来ませんもん(笑)」試合前にはさすがに岡山監督も話をするが、その内容は戦術や相手投手の攻略法などではなく、野球に対する取り組み方や考え方の確認がほとんど。
「いい人間が揃えば、いいチームになるに決まってる」というのが一貫した方針だ。
14対0の5回コールド勝ちを収めた後にはこんな一幕があった。スタンドで昼食をとっていると原田英輝(3年)が下級生に注意を促す。チームでまとまってグローブやカバンを道路脇に置いていたがバラバラに乱れていたという。すぐに全員で整理整頓に向っていった。おそらくこれは、監督に言われたからではなく選手自ら気づいたもの。夏へ向けてチームは確実に成長している。
兵庫甲南は、土曜日も授業があるため練習試合を組めるのは基本日曜日だけ。さらに大規模な工事を行っている関係で1年以上グラウンドが使用出来ない。そのためフリーバッティングや外野ノックをするスペースはもちろん無い。どんなに打っても飛ばない、丸めた新聞紙をボールに見立てた“新聞紙バッティング”が兵庫甲南にとってのフリーバッティングだ。ただ、だからこそ精神的に強くなれたと岡山監督は話す。
「その環境のおかげで成長出来た。野球を通じて人生の大切なことを学びたいとずっとやってきた。まずは自分。自分に勝てるようにやってほしい」旧チームからはベンチ入りメンバー総入れ替えで臨むことになった今年のチームだが岡山監督は手応えを感じている。
「伝統は目に見えないけど引き継がれる。だから絶対毎年強くなるはず」スタンドにはこの春卒業したばかりのOBが多数観戦に訪れていた。駅へと向かう帰り道、きれいに整頓された野球道具を見て後輩たちに頼もしさを覚えたに違いない。
(文=小中 翔太)