グラブの軽さと操作性が守備を変える 内野手編/『球ぎわ 』
【写真提供:スポーツニッポン新聞社】
球出しが速い小さいグラブと、
守備範囲を広げる
大きいグラブ
内野手のグラブ選びで重要なポイントになるのが、サイズの選択だ。
城下選手の場合は、少し小さ目のグラブを選んでいる。その理由は、「しっかり捕って投げることを大切にしたいから」。確実に捕球し、スムーズに握り替えて送球することを優先する選手は、少し小さ目のグラブを選ぶ人が多い。たしかに、できるだけ正面で捕球できるよう動くためには、小さい≒軽いは武器になる。
また、そんなに足が速くない選手であれば、早く追いつかなければいけないぶん、なおさら軽い方が動きやすい。それは、逆を取られた時などギリギリの動きをせねばならない場面でも同じだ。また、グラブが大きくなれば、どうしても握り替えはしにくくなってしまう。
一方では、大きい方がいい、とする選手もいる。手塚選手はその一人だ。「僕は、大きいほうが隙です。たしかに、小さい方が捕球しやす。しかし、大きくても使いこなせるなら、ボール一個分でも守備範囲を広くしたい」。
ショートとセカンドを守る宮之原選手のグラブに対するこだわりも興味深かった。「ショート用のグラブは、従来のモデルに比べて、1センチぐらい長くなっています。実は、これは徐々に長さを足していったもの。ボールに触れる機会が多いので、練習しながら長くしてきました。
なるほど、大きくて使いこなせればそれに越したことはない。とはいえ、それは簡単でもない。ボールに触れる機会が多い内野手にとっては、使いこなせない≒ミスを意味する。実際に、宮本慎也選手(ヤクルトスワローズ)は、何年もかけてグラブを1ミリ単位で大きくしてきた。十分に使いこなせるという実感を持てるようになるには、それに見合う練習が必要となる。
最適な
「硬さ・柔らかさ」は、
シーズンで変わる。
内野手は、グラブのさばきやすさ・ハンドリングを重視して、柔らかいグラブを好む人が多い。それは、素手に近い感覚、ボールがしっくりグラブに入ってくる感覚を求めているからだ。当然、革も柔らかいものとなるが、ココが一考のしどころ。社会人野球の場合、予選は夏。暑い時期には、革も必要以上に柔らかくなり、球ぎわで弱くなる。ある程度硬くないと、速い打球に対して負けてしまう。これは、同じく夏が大会時期になる高校野球についても言える。
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ショートのグラブは、
サードより
軽くて柔らかい方がよい。
神野選手は、社会人チームに入ってから、ボジションをサードからショートに変えた。その時のグラブにまつわるエピソードは、同じ内野手でもポジションによってグラブ選びに微妙な変化が起きることを示唆していて興味深い。「サードでは、大きいグラブを使っていましたが、そのままのグラブでショートに入ったら、なぜかしっくりこなくて……」。コーチに勧められて軽く柔らかいのを使い始めたら、やっとしっくりくるようになった、という。
ゲッツー狙いなどの時にもグラブを動かしやすく、球だしもしやすい。次第に、軽いほうが使いやすいと感じるようになった。その感覚を、神野選手いわく、「簡単に言えば、上手くなったような感じ」。今は、軽くて操作性のよいグラブに一番のこだわりを持っているそうだ。
握り替えの多いセカンドは、
ショートより
さらに操作性の良いグラブ。
ショートとセカンドは、基本的には小さくて軽いグラブの方が適していると考えられる。しかし、似て非なる守備もある。球への触れ方・回数・動きが違えば、それがグラブ選びの違いになる。
ショートは、カットプレーやキャッチャーのセカンド送球などでショートバウンドを処理する場面もあるため、多少引っかかった方が処理しやすい。
手塚選手は、ショートにしては、やや大きめのグラブを使っている。その理由は「自分の手の感覚と同じようにプレーするため」と説明する。「ボールを捕るポイントを3つに分けています。速い打球は芯で、普通のボールは当てて、バウンドが代わったり詰まったりした打球は土手で」。
ポイントの使い分けができるのは大きいグラブならではのメリットだ。しかし、大きいグラブでポイントを使い分けられるのは、技術的にかなりのハイレベル。その技術力がなければ、大きいグラブはボールの握り替えが難しくなるというデメリットも持つ。二遊間のプレーにとって、握り替えのしやすさが重要なポイントになるのは言うまでもない。
かたやセカンドは、ゲッツーなどのあいだに入るプレーが多いため、ショートより握り替える回数は多くなる。となれば、グラブは必然的に小さくなっていく。
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【Mini Column】
現代野球のトレンド?
小指二本の考察
宮之原選手は、セカンドを守るときにはグラブの小指に二本指を入れている。しかしショートを守るときには、二本ではなく普通に入れる。
その違いは何か?
おそらく、少しでもグラブを長く使いたいという狙いからだろう。指を二本入れれば、指にはグラブに収まりきらず少しはみ出す。実はそのぶん、グラブが長く使えるのだ。
セカンドを守るときのグラブトスや逆シングル、セカンドベース上を転がるセンターに抜けそうな詰まった打球、ゲッツー狙いなどでは、そうしたセンチ単位の差が大きな差になる。
実は、これは僕らの時代には、外野手がやっていたことだった。理由はやはりグラブが長く使えるから。軽いグラブで速く走って、めいっぱい手を伸ばせる。
しかし、いまは内野手でも、小指を二本入れる選手が増えてきた。松井稼頭央選手(東北楽天ゴールデンイーグルス)から始まって、新井貴浩選手(阪神タイガース)も二本入れている。
グラブをぎりぎりまで長く使って球ぎわで補給し、捕ったその流れのままに素早く球をだす。結果的には球だしも早くなる。ポケットでしっかりと捕球すると、そのぶん、球だしは遅くなる。
正面でしっかり捕球する。
この内野守備のセオリーとは、一件矛盾するようにも思える指二本。今の野球、内野手には、それぐらいギリギリのプレーが求められているということなのだと思う。
■プロフィール
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栗山英樹 Hideki Kuriyama
元プロ野球選手(ヤクルトスワローズ)。‘84年、東京学芸大学よりドラフト外でプロ入り。‘80年代後半、セ・リーグを代表する外野手・スイッチヒッターとして活躍。‘89年、ゴールデングラブ賞獲得。‘90年引退。現在は、白鷗大学経営学部教授として教壇に立つかたわら、テレビ朝日、TBSラジオ、NACK5 を中心にメディアへ登場。2009年度より、『熱闘甲子園』(朝日放送・テレビ朝日共同制作)のナビゲーターも務める。
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セガサミー野球部
2006年に日本野球連盟に加盟、東京都に本拠地を置く社会人野球チーム。2006年都市対抗野球東京2次予選では第1代表決定戦に駒を進め、「加盟1年目の本大会出場か」と期待と注目を集めたが、惜しくも本大会出場を逃す。その雪辱を果たすべく、2007年は東京第3代表決定戦で明治安田生命をくだして本大会初出場を決めた。その後3年連続で東京第3代表として都市対抗本戦に出場している。
【写真左から】
天沼 秀樹選手(あまぬま・ひでき)
‘06年、‘07年関東リーグ優秀選手。前橋商業高校-関東学園大学-いすゞ自動車-ミキハウス。34歳。
上津原 詳選手(うえつはら・しょう)
‘08年東京都ベストナイン(投手)、‘09年東京都ベストナイン(敢闘賞)、‘10年東京都春季大会敢闘賞。東海大相模高校- 青山学院大学。27歳。
木村 宣志選手 (きむら・たかし)
‘07年千葉市長杯MVP。春日丘高校(東海大会優勝/3年・春)-東北福祉大。28歳。
【社会人野球ドットコム編集部】(@JABBallcom)