昨秋県大会4強入り・伊香(滋賀)の小島義博監督が送った、3年生へのメッセージと問いかけ
伊香ナイン(*写真は昨冬取材時より)
今年の春に開催されるはずだった第92回選抜高校野球大会で21世紀枠の補欠校に選ばれていた滋賀の伊香。夏こそは実力で甲子園を掴むと意気込んでいたが、そのチャンスは与えられなかった。20日の第102回全国高等学校野球選手権大会中止から一夜明け、小島義博監督に電話取材を行った。
――昨日の発表を聞いて、率直にどのようなことを思われたでしょうか?
「ある程度、僕の中で覚悟はできていましたので、受け入れることはできました。主将の竹原(壮吾・3年)とエースの隼瀬(一樹・3年)には『有ることが難しいと書いて有難いという言葉が日本では言われているけど、有ることが難しいということをみんなは本当に理解しているかな?』と言いました。
僕らは甲子園に行けなかったのではなく、隼瀬にしても竹原にしても2年生の夏にメンバーに入っていたので、その時に甲子園に行っておけば良かったんじゃないかなと。『自分たちの代が来たら甲子園に行くぞ』というのは明日があるからと安易に考えているから言えること。正直、明日があるのは誰も保証してくれないじゃないですか。
過去を嘆くことをみんなしますけど、明日、生きているか死んでいるかわからない、運命の人に出会っているかわからない、肘が上がるかわからないとかあるじゃないですか。だからこそ『有ることが難しい、有難いことを感じていきながらその一瞬を精一杯生きていることをお前たちはしていたか?』とあえて厳しい問いかけをしました」
――その話をした時の選手の表情はいかがでしたか?
「さすがにへこんでいるというか、悲しんでいるなというのが率直な感想ですね。なぜ悲しいかというと、彼らは自分が甲子園に行きたいのではなく、『伊香高校で甲子園に行きたい』『この仲間で甲子園に行きたい』、もっと言うと『地域の人たちとみんなで甲子園に行きたい』という感じなんですよね。
だから地域の方やOB、ファンの皆さんを甲子園に連れていくことができなかったのが悲しい。センバツに出られない悔しい思いをして、夏に成長した自分たちの姿を見てもらいたい、勇気や希望を与えたいというようなことを僕らも言っていたので、彼らもそう思ってくれたのは非常に嬉しかったですね」
――センバツ落選後の選手たちの取り組みはいかがでしたか?
「凄く良かったです。課題が明確になっている子もいたので、自分の弱さと向き合いながら課題を潰してきました。冬からの成長は大きかったですし、休校期間中も自分たちで考えながらやっていたので、凄く成長していましたね」
――夏に滋賀県で独自の大会が開かれたら、どのように選手を送り出したいですか?
「生徒には『ピリオドの打ち方は自分たち考えろ』と言いました。今回、色んなことを大人が決めているじゃないですか。センバツにどこを出すか出さないかとか、コロナにどう対応するかを大人が決めていると思いますけど、そこに子どもたちの想いが反映されていないと思うんですよね。
だからこの子たちの意見を吸い上げて頂きたいなと思います。大人が可哀そうだからと子どものために大会を作ってあげるのは、その子たちを悲劇のヒーローに仕立て上げてしまいますし、果たしてそれが本当に彼らが報われることなのかと思っています。
それぞれチームの中に想いがあるので、3年生にどういう終わり方をしたいのかをキャプテンの竹原には聞きました。生徒たちの想いで『あのチームと試合をして終わりたいです』とか『この場所でやりたいです』とか出てくると思うんですよね。『3年生フルメンバーで出してください』でも良いでしょうし、『3年生のことは気にせずに大会と一緒だと思って、平等に背番号を渡してください』でも良いと思います。色んな意見を吸い上げて頂けたらと思います」
――この経験を教え子たちにはどう活かしてほしいですか?
「高校野球は人生の縮図だと思っています。人生の中では大きな試練や関門はつきものですし、その分、大きな幸運や幸福を手に入れることもあると思います。彼らは今回のことをこれからの人生の中で『あれがあったからできなかった』というような言い訳に使ってほしくないと思います。
コロナがあったからこそ有ることの難しさに気づき、目の前にいる人に感謝されることを積み重ねていけば、周りの人たちは喜びが溢れていき、人として生きていく価値を見出していくと思うので、『何かが起こってから色んなことを動かしていくような大人ではダメだよ』ということを言っておきました。地位や名誉や損得でないところで判断できるような大人になってほしいと思っています」
(取材=馬場 遼)
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