「学校生活はいい加減」を無くしたい。ポニー全国準Vチームが公立中学と異例の連携

佐賀ビクトリーの練習風景

　クラブチームで懸命に野球に励む一方で、指導者の管理が届かない学校生活ではいい加減に過ごす。中学野球では、昔から良く目にする光景ではないだろうか。こうしたグラウンドと学校での「ギャップ」を無くしたいと取り組んでいるのが、佐賀県佐賀市で活動を行っている佐賀ビクトリーだ。

　昨年はポニーリーグの春の全国大会である、全日本選抜中学硬式野球大会で準優勝に輝くなど一躍脚光を浴びた同チームだが、古澤豊監督が指導する上で最も重視するのは、正しい日常生活を送らせることだ。

「大会での背番号やメンバー登録は、うちは全部投票制なんです。僕らの前だけ真面目にしてもメンバーには入れないですし、背番号ももらえません。練習をサボったり、学校生活をおざなりにする選手はやはり仲間からも信頼してもらえません。背番号を発表した後で、納得できない選手がいれば僕へ直接言いに来てもいいよと言っていますが、実際になぜ外れたのか聞きに来る選手はいます。投票の際には理由も聞くようにしているので、説明してあげると納得できなかった選手も反省するようになります」

　裏表のない真っ直ぐな人間になってほしい。
　チームの指導には、古澤監督の野球を通じた人間形成への思いが随所にある。

　その最たるものが、選手が所属する中学校と定期的に面談を行っていることだ。
　ボーイズやシニアといったクラブチームは、所属選手の学校生活まで管理することはできない。だが、いい加減な学校生活はプレーにも必ず表れ、場合によっては進路にも悪影響を与えることになる。学校とチームが、より綿密に情報交換を行うことで、選手の人間形成、希望する進路実現を後押ししたいと考えた古澤監督は、選手が通う学校に赴き、校長先生との面談の機会を申し入れたのだ。

「以前に、野球推薦で話が進んでいた選手がいたのですが、学校から推薦書がもらえずに希望していた学校に行けないということがありました。推薦書なんて普通に生活していればもらえるものだと思っていましたが、よくよく話を聞くと学校生活が本当にいい加減だった。野球しかやっていないような感じで、これじゃいけないと思ったのがきっかけです。

　最初の頃は、学校に連絡しても校長先生も『一体何ですか』という感じで、個人情報だから厳しいという回答ばかりでした。しかし進路に向けて協力してやっていきたい、こちらの活動の様子を伝えますので、できる限り学校での様子をお伝えいただけないでしょうかと頭を下げて回り、少しずつ情報交換をさせていただけるようになりました」

　今では県内の多くの校長先生と連携し、実際に授業の様子を見学できる学校もあるという。チームの監督が突然学校に現れ、選手たちが驚くことは想像に難しくないが、それでも以降は推薦書がもらえない選手も0になり、学校と連携した進路指導ができるようになった。

「公立中学の先生は移動もありますので、移動先の学校でバッタリ会う方もよくいます。もちろん中には、成績が足りなかったり、決して学校生活も良いとは言えない選手もいますが、成績が上がるように補習を行っていただいたり様々な面でサポートしていただけるようになりました」

　もちろんグラウンド上でも、フェアプレーの精神や相手選手のファインプレーに賛辞を送るなど、選手の人間形成への取り組みは惜しまない。グラウンドと学校での「ギャップ」を無くす動きは、これから中学野球の“当たり前”となっていくのかもしれない。

（取材：栗崎 祐太朗）