高卒プロを選ばなかった理由

 2年秋、芹澤のプレーするステージが高くなった。昨年11月には、愛知県選抜に選出され、今年4月には高校日本代表候補の合宿に参加した。この2つのステージで、「変化球の精度」という課題をみつけた。愛知県選抜vs三重県選抜の試合で先発登板した芹澤は、2回3失点。高校日本代表合宿では2回1失点。いずれも失点は変化球を打たれたものだった。芹澤の変化球はプロ志望を掲げている左腕投手と比較すると見劣りする。レベルの高い打者には直球に頼るのが現状だ。

 芹澤自身、変化球を投げるのは苦手だと語っている。

「自分自身、指先感覚が良いほうではなく、器用に投げている投手と比べるとまだまだです。高校日本代表候補の合宿では京都国際の西村(一毅)くんが同じ腕の振りで直球と変化球を投げていてすごいなと思いました。ストレートの調子が悪いときに保険となる変化球を身に着けたいですね。調子が悪い時でも安定した投球を夏までに完成させたいと思っています」

 春の県大会では3回戦の安城戦で7回112球、11奪三振、無失点。翌日の4回戦では日本福祉大付と対戦し、9回完投負けとなったが、133球、12奪三振。2日連続で100球以上を投げたのは初めての経験だった。

「2日目(4回戦)のときは思った以上に投げることができました。自分の中でよく投げられたと思います。ただ週が明けてから疲れを感じたので、体力面でまだまだなのかなと思います。夏は結構暑くなりますしいつでも連投できるような体力が必要だと思うので、そこはちゃんとしっかり鍛えていきたいと思っています」

 注目される芹澤の進路だが、プロ志望届を提出せず、社会人に進む予定だ。

「プロはレベルが何段階も上。『プロで通用するのかな』という不安はあります。高卒プロという道はあると思うんですけど、まずは大学、社会人のレベルを経験してからプロを目指しても良いかなと思います」

 春の県大会では3回戦、4回戦で連続二ケタ奪三振。昨夏から私学の強豪校相手に直球でねじ伏せる投球を見せてきた。それでも高卒プロにいく自信はついていない。

「やはり制球力、変化球の精度など足りない部分はありますので、プロにいくにはまだまだだと思っています」

 芹澤の成長を見守ってきた河原仁監督も同じ感想だ。

「芹澤はマイペースな子であると同時に、勝負強さがある投手です。しかし、課題も多い。まず線が細い。バント処理、変化球の精度なども全く未完成です。身体づくりや技術はプロに入ってから身につければいいともいわれますが、極端にレベルが違う環境でそれができるかといえば、できないと思っています。プロに入る選手たちはかなり競争意識を高く持って臨んでいます。いきなりそういった選手たちと競争しながら活躍を目指すよりは、ワンクッションを置いたほうがいいかなと言うのが私の考えです。プロは生易しい考えで行く場所ではないです。しっかりとした環境で、しっかりとした指導者に見てもらって段階を踏んでプロを目指しても遅くはないと思います。そこで結果が出なくても実業団ならば面倒を見てもらえますし」

 素晴らしい才能を持ちながらも、プロの環境に戸惑った末、イップスに陥り早い段階でユニフォームを脱いでしまった選手はいた。芹澤は並外れた直球を投げる才能を持つが未完成の素材。いきなりプロではなく、段階を踏むという決断は間違っていないと感じる。

高校日本代表に選ばれたい

 芹澤は6月21日の富田(岐阜)との練習試合で4回4奪三振、無失点の快投をみせた。夏に向けて芹澤は言う。

「体力をつけるよりも、いまある体力のなかで長いイニングを投げるために、力を入れて投げるところとそうではないところ。そこを意識するようになりました。今までは結構力を入れて全て投げるようにしていたので、力を入れずにストライクを入れると新しい感覚になるので難しい部分があると思っています。ですので、今日の試合もやろうとしましたが、ボールが悪かったので、しっかり力を入れていいボールを投げようとしました。ただ平日のブルペンでストライクを狙う、コースを突く。球速を意識するように練習しています」

 夏の愛知大会の組み合わせも決まった。初戦は6月28日の1回戦。相手は知立である。初戦に勝利すれば、名古屋たちばな瀬戸の勝者と対戦する。厳しい組み合わせとなったが、名古屋たちばなとはこの春、練習試合でも対戦しており、手応えを感じている。

「ゴールデンウイークの時に練習試合で対戦しています。その時は調子が良くて、良い感覚で投げられたので、いいイメージは持っています。ですが、自分が良いピッチングをして抑えないと勝てないと考えています。ですので、自分にかかる責任は大きいかなと思っています」

 エースとしての自覚が見える芹澤。最後に夏の大会へ向けての目標と高校日本代表入りの思いを語った。

「私立を倒したいという気持ちはあります。しかし、まずは初戦。しっかり良い試合をして、一戦一戦勝てるような試合をしたいと思っています。

候補に選ばれたからには、やはり本大会で日の丸を背負って戦いたいという気持ちは自分の中で大きいです。ただそのためには夏の大会でしっかり勝ち進まないと、そういうところは見えてこないと思います。ですので、まずは夏の大会でちゃんと良い結果を残せるように全力を尽くしたいと思います」

 全国屈指のサウスポー・芹澤 大地のラストサマーがいよいよ始まる。

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