対浦和学院戦、史上最多の観客が押し寄せた

「埼玉の県大会では過去最高収益らしいですよ」

 4月29日、春の埼玉大会3回戦が行われたUDトラックス上尾スタジアムで関係者が漏らした言葉だ。

 この日は第3試合で上尾と甲子園常連校の浦和学院が対戦した。この試合を目当てに多くのファンが球場を訪れたのである。

上尾は多くの人に見ていただける学校です」と高野監督が語るように、埼玉屈指の伝統校と甲子園常連校の一戦で内野席は超満員となり、立見で観戦する人も少なくなかった。上尾のホームともいえる雰囲気が球場には漂っていた。春の大会としては超異例の盛り上がり。上尾の人気は健在なのである。

 いざ試合が始まると、上尾の選手のヒット一本で大歓声がわく。2回に連打で1点を返した場面では、オレンジ色のメガホンを持った応援が会場の雰囲気を飲み込んだ。地元市民のみならず、埼玉の高校野球ファンにとって上尾が特別な存在であることを肌で感じさせた。

 しかし、試合は序盤から浦和学院打線が爆発。両校は昨秋の埼玉大会で1対2と肉薄した試合を演じ、春も熱戦が予想されていたが、結果的に1対15。7回コールドで上尾は敗れ去った。試合中には高野監督から「歴史的大敗だ」と選手達にゲキが飛ぶ。試合後には「何の言い訳もできない。今現在の実力です。あの負けを活かせる夏にしないといけないと」と指揮官も危機感を募らせた。

「歴史的大敗」を糧に夏へ

 それでも試合後、ファンからは励ましの声も多く届いた。

「あれだけ応援してもらっていたのに、何もできませんでした。選手たちも『俺たちはやらなきゃいけない』と感じたと思います。本当に惨敗でした。それでもあの試合の後、『頑張れ』『また夏応援するから』という声が多く届きました。これは今までのOBが作ってくれたもの。これからは今の3年生が頑張らないといけないと伝えました」(片野 飛鳥部長)

 グラウンドに帰ると、選手たちは目の色を変えて練習に取り組んだ。試合から数日が経ち、石田主将も「全体練習だけでなくて、個人練習で打撃や守備に対する一人ひとりの意識が高くなったと思います」と変化を感じている。特に守備面に力を入れ、取材日にも試合を想定したノックで守備の連係を確認していた。夏に向け投手力をあげながら、徹底された守備で堅実な野球を貫いていく。

 ファンの温かい応援を背に夏を見据えて再スタートを切ったチーム。片野部長は言う。

「自分は『昔は強かった』と聞いてきた世代。それをこじ開けようとしてきましたが、今はその時代を知らない選手たちも多い。その中でやり方を変えることもありますが、大事な部分は変えていない。例えば全力疾走であったり、守備からリズムを作ることであったり……。そこは時代が変われど徹底しています。ただ『応援されるから頑張るだけではなく、勝ちたいから頑張るんだ』という部分は大切にしています」

 夏はエースの皆川を中心とした守り勝つ野球で上位進出を狙っていく。"夏の予行演習"となった浦和学院戦の雪辱に燃え、選手たちは胸に記された「上尾高校」の文字を誇りに今日も白球を追い続ける。

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