市立和歌山vs県立岐阜商
世代ナンバーワン右腕を攻略できる気配はあった県立岐阜商の執拗な攻め
小園健太
前評判通りの一戦となった市立和歌山と県立岐阜商の対戦。注目右腕・小園健太と好投手・野崎慎裕の投げ合いで始まった試合は、8回まで両チームのスコアボードに0が並ぶ展開となった。
延長戦も視野に入ってきた中で、9回に市立和歌山は一死から5番・平林直がヒットで出塁すると、四球もあって一死一、二塁とサヨナラのチャンス。ここで7番・亀井新生が食らいついた打球がセンターへ転がり、平林が生還。市立和歌山がサヨナラ勝ちで県立岐阜商を下し、2回戦へ駒を進めた。
世代NO.1右腕の呼び声高い小園健太を攻略するために、死力を尽くした県立岐阜商のチーム力の高さ、戦術の手札の多さ。改めて1回戦で消えるのは惜しいチームだった。
完封勝利を掴んだ小園も、「試合前から1点を争うような厳しい試合は考えていた」と接戦となることは想定済。しかしそれでも「肉体的にも精神的にも疲労はあります」と振り返った。
4安打、6四死球を交え、130球を投じさせた県立岐阜商。指揮官の鍛治舍巧監督、選手たちのコメントを見ると、完封された側にありがちな相手投手の凄さをたたえるようなコメントではなく、攻略に自信をのぞかせるものだった。
「真っすぐは全く打てない感じではなかったですし、実際に対応はできていました」(鍛治舎監督)
「自分たちのスイングはできていたと思います」(4番高木翔斗主将)
2人のコメント通り、実際に試合を見ていると全く歯が立たないというわけではないのはネット裏の記者席から見てもよく分かる。
ではこの対応力はどうやって養われていたのか。以前の取材では5か所バッティングを敢行し、一か所のみ15メートルほど距離からマシンのボールを打つゲージを設置。体感速度が150キロになるようにマシンを設定しているが、これを選手たちはことごとくジャストミートしていく。高木も「普段からマシンで速いボール打ってきたので、小園君だから特別なことをしていない」と話していたが、このおかげで最速152キロを計測する速球に対しても目が慣れ、バットを振りに行けたのだ。
現代の高校野球はツーシームやカットボールといった、小さく動く変化球で攻めが主流投手となっており、実際に県立岐阜商の投手陣もそれを実践しており、小園はピッチトンネル理論をマスターする超高校級投手だ。
鍛治舍監督は現代の高校野球の流れを感じ取り、練習メニューを組んでいた。
「小さく動くボールが多いので、いかにしてふり幅を小さくできるか。ミートまでの無駄をとにかく減らして振ることで誤差を減らさないといけない。だから膝、腰の順番で動かすこと以上にに体幹が打撃フォームの中でも大事になってきました」
インサイドアウトでバットを出すことが理想とされるが、鍛治舍監督は、「インサイドインくらいのつもりで体重移動も誤差を無くさないと」ということも話しており、独自の理論は構築されていた。
その教えを享受されていた選手たちの様子を見ると、追い込まれてからノーステップにするなど、後さを減らす取り組みは見えた。高木も「追い込まれてからのツーシームやカットボール系は見極めが出来ていました」と成果を打席の中で感じ取れていた。
それだけにチャンスであと一本を出せなかったことは監督も選手も悔やんでいた。日本一を目指して選抜に挑んだ県立岐阜商だったが、その想いを同じ公立の市立和歌山に託し、明日からは夏の全国制覇へ再び第一歩を踏み出していく。
(取材=田中裕毅)