智辯和歌山vs富山商
終盤の一打で智辯和歌山が好投手沢田を攻略
好投を見せた沢田龍太(富山商)
近年の北陸勢の強さが納得できる富山商の戦いぶりだった。好成績を挙げる公立校の多くが好投手を擁し、この好投手を支える好守にも共通点がある。富山商もその例に洩れず、この試合ではエース沢田龍太(3年)が智弁和歌山の強力打線を7回まで6安打、2失点に抑え、沢田を支える野手陣はエラーが捕手の二塁悪送球1つという好守で盛り立てた。
沢田の持ち味は変化球の精度の高さ。さらに昨年秋の公式戦で記録した与四死球率(9イニングの与四死球数)2.48でわかるようにコントロールの安定感も際立っている。こう書くと技巧派に思われるが、この智弁和歌山戦で計測したストレートの最速は143キロだから平均を上回っている。
ただ、左肩の開きが早く、さらに投球フォームがオーソドックスな本格派。このタイプが智弁和歌山打線に通用するだろうか、沢田の試合開始直前の投球練習を見たときはそう思った。2回表には冨田泰生(3年)が内野安打と二盗したときの捕手の悪送球で三進、次打者の四球で沢田は1死一、三塁のピンチを迎える。ここからスライダー、フォークボールを交えた投球で智弁和歌山の強力打線を翻弄し、7、8番打者を三振、センターフライに打ち取るのだが、この場面を見てようやく第一印象の間違いに気づいた。
左肩の開きの早い投手は球離れが早いのが普通だが、沢田はなかなかボールが指先から離れない。思い出すのがオリックスの新人、田嶋大樹の社会人(JR東日本)時代。開くのに球持ちがよく、ストレートは低めに伸び、変化球は変化点が打者寄りでフルスイングを許さない。田嶋と同じよさがこの試合の沢田にも見られた。
2対2の均衡が破れたのは8回だ。2死走者なしから智弁和歌山の7番打者が二塁手のエラーで出塁すると沢田の暴投で二進、8番東妻純平(2年)が四球で続いて一、二塁。この場面で9番の池田陽佑(投手・2年)がセンター前に弾き返し、これを中堅手が捕球に手間取る(記録はエラー)間に2人が生還し、均衡が崩れた。
智弁和歌山は先発の小堀颯(3年)と2番手の池田が変化球主体の投球で富山商打線に的を絞らせなかった。小堀が4回3分の2を投げて4安打、3三振、2失点、池田が4回3分の1を投げて3安打、1三振、0失点だから数字上はあまり差がない。それでも安心感が池田のほうにあったのは球数の差だ。小堀65、池田49でかなり差がある。ボールの数は小堀の24球に対して池田は15球。これが見た目の安心感の差となった。
個人的には智弁和歌山の2年生捕手、東妻の強肩に注目した。今大会はこれまでイニング間の二塁送球で2秒を切る選手が少なかった。私の計測では瀬戸内の東大翔(3年)が1.98秒を2回計測しただけである。しかし東妻は初回のイニング間から1.94、1.99、1.97、1.91秒を計測し、8回に二盗を許したときは実戦で2.06秒という速さだった。投手が一塁走者に無警戒だったので刺せなかったが、コントロール、球筋ともすばらしく、現段階では「大会ナンバーワン捕手」と言っていいだろう。
(文=小関順二)