花咲徳栄vs広陵
花咲徳栄に初優勝をもたらした猛打の理由
初優勝を果たした花咲徳栄ナイン ※写真=共同通信社
両校の先発、綱脇 慧(花咲徳栄)、平元銀次郎(広島広陵)はストレートが特別速くない。変化球を多投し、その変化球を効果的に見せるためにストレートを3割程度交えるのだが。そのストレートを両投手とも狙い打ちされた。
花咲徳栄は1回表、1番太刀岡蓮(3年)が138キロのストレートをセンター前、2番千丸剛(3年)が132キロのストレートをライト線に運んで二、三塁のチャンスを作り、3番西川愛也(3年)がスライダーをセンター前に落として2点を先行。2回は得点こそ挙げられなかったが7番小川恩(3年)が134キロのストレートをレフト前に運んで、徐々にストレートを投げにくい空気が作り上げられていく。
3回には2つの四球にバントを絡めてチャンスを広げ、5番須永光(3年)が142キロのストレートをコンパクトなスイングで捉えて2点を追加した。この142キロはこの試合に計測した平元の最速だが、それを須永はフルスイングしてセンター前に鋭く打ち返すのである。こうなるとストレートをストライクゾーンに入れるのも勇気がいる。
広島広陵も1回から積極的に打って出た。1回は2番吉岡広貴(2年)が134キロのストレートをレフト前、3番中村奨成(3年)が138キロのストレートをレフト線に運ぶという具合。得点が入った2回は9番平元がスライダーを二塁打にして1点返し、3回は4番村上嘉一(3年)が133キロのストレートをセンター前に運び、5番大橋昇輝(3年)がセンターに二塁打を放って2点目を挙げるという展開。ストレート狙いのヒットを起点として試合が動いているのがよくわかる。
試合が大きく動いたのは5回表だ。花咲徳栄は1番太刀岡が四球で歩いたあと千丸、西川、野村佑希(2年)が長短打をつらねて3点奪い、走者をバントで送ったあと6番高井悠太郎(3年)が右中間に二塁打を放ち8点目が入り、さらに綱脇のフライを右翼手が落球し9点目が入り、9番岩瀬誠良(3年)のタイムリーで10点目を挙げて試合を決定づけた。
広島広陵の左腕コンビ、平元、山本雅也(3年)はスライダーのキレに特徴のある技巧タイプで、より技巧色が強いのは2番手の山本のほう。山本は左打者が多い花咲徳栄打線に対して〝フロントドア″と呼ばれる内角スライダーを投げ、そのあとに外角へスライダーを投げるという内・外の揺さぶりに活路を求めたが、もう少し内角をしつこく突いてもよかったと思う。類型化した配球は花咲徳栄各打者の踏み込みを容易にし、長打が4本乱れ飛ぶ原因になった。
広島広陵の3番中村はこの決勝でも3安打放って大会通算19安打とし、1986年に水口栄二(松山商)が達成した記録に31年ぶりに並んだ。イニング間の二塁送球では1回も2秒未満を計測できなかった。それほど疲労がありながらバッティングでは3安打しているのである。この選手は本当にすごい。
1回裏に放った二塁打は綱脇の138キロ、第3打席の内野安打はマウンドに上がったばかりの清水達也(3年)の投じた146キロのストレートを打ったもので、9回の二塁打は清水の内角へのストレートをレフト線に弾き返したもので、打球の速さや、ヘッドを最短で出していく技術的な高さは、高校生キャッチャーとしては城島健司(元ダイエーなど)以来と言ってもいいだろう。広島広陵は優勝旗を手にすることはできなかったが、高校野球ファンの目を釘付けにしたという点では優勝した花咲徳栄を上回った。
(文=小関 順二)
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