試合レポート

東海大甲府vs静岡

2015.08.07

春季関東大会の敗戦が生きた東海大甲府の打撃スタイル

 東海大甲府vs静岡と隣県同士の対決となった。
お互い打撃陣のレベルが高く、その持ち味が発揮すれば、激しい試合になるかと思われたが、立ち上がりから激しい試合展開となった。

 1回表、東海大甲府は二死二塁のチャンスで4番平井練(3年)が打席に立った。
平井の姿を見て、ある変化を感じた。打撃フォームに大きな変化があった。これまでの平井は上体が高い構えで、始動遅めのフォームで、ヘッドが下がる課題があった。ワンテンポ遅いので、140キロ以上の速球に振り遅れ、また上体が高いので、低めの変化球が見えずに、三振に終わることが多く、ここからいかに脱却できるか。昨年から平井を見続けて、ずっとチェックポイントにしていたことであった。

 だが今回の平井はオープンスタンスで構え、重心を下げたフォームに切り替えた。遅めの始動なのは変わりないが、このフォームにしたことで、低めの球をうまく呼び込めるようになった。
 そして平井は低めの変化球を打ち返し、右前適時打を放ち、先制する。平井が構えを変えたのは、おそらく関東大会・佼成学園戦で140キロ台とキレのある変化球を武器にする小玉和樹佼成学園)から打てなかったことが影響しているだろう。この試合、平井が最後の打者であった。小玉は全国レベルの好投手。このレベルの投手を打てなければ、全国を勝ち進むことができないと痛感したのであろう。その創意工夫がフォーム改造となり、先制点を呼び込んだ。

 だが1回裏、二死三塁から4番堀内謙伍(3年)が外角ストレートを捉え左越え適時二塁打を放ち、同点に追いつく。この一打を見て堀内も格段の成長が見えた。これまではややヘッドが下がり気味だったが、以前よりもインパクトまで無駄なくバットが出るようになり、縦軌道のスイングを実現。
 プロは打球の角度を付ける選手が多いが、堀内の打球もこれまでと比べればだいぶ鋭くなり、外角速球を強くたたくことができて、逆方向へと遠くへ飛ばす。

ハイレベルな打撃ができるようになっている。タイプ的に近藤健介横浜-北海道日本ハムファイターズ)を彷彿とさせる選手で、プロ、アマのカテゴリー問わず、打てる捕手に慣れる予感をさせた、静岡は2回裏、三瓶直也(2年)のスクイズを成功させ、勝ち越しする。


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 だが東海大甲府はこのままでは終わらない。静岡の先発は村木文哉(2年)。常時140キロ台の速球、落差あるフォークを武器にする投手。この日はフォークが高めに浮いており、ストレートも若干ベルト寄りに集まっており、それを見逃さなかった。

 3回表、角山 颯(3年)の左犠飛、松岡 隼祐(2年)の適時二塁打、五十嵐 誉(3年)の右前適時打で計4点を入れて逆転に成功する。東海大甲府打線で光ったのはタイミングを性急に取りにいくことなく、手元でボールを呼び込んで逆方向に強い打球を打ち返すことができていること。140キロ台の速球に対して、強引な打撃をしてはならない。そういう意識が徹底されている。

3回裏、2点を追い上げられ、再び1点差にされるが、5回表にも、4番平井は左前2点適時打で7対4とする。こちらも外角への変化球。ただ強打だけではなく、軽打で打ち返すことができるところが良い。

 だが静岡も粘りを見せる。6回裏、内山 竣(3年)の犠飛で7対5とすると、さらに7回裏にも、三瓶 慎也(2年)の犠飛と静岡 鈴木 将平(2年)の適時打で7対7の同点に追いつく。東海大甲府菊地大輝(2年)は常時140キロ~最速145キロ、130キロ中盤のカットボール、130キロ台のチェンジアップ、ツーシーム、スライダー、この日は投げなかったが100キロ台のカーブもあり、球速、球威は抜群で、変化球の速度も高く、なかなかお目にかかれない投手。だがボールの角度は平面的なのが課題で、それを球速ある変化球でしのいでいたが、ベルトよりに浮くボールを静岡打線は見逃さなかった。


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 いよいよ大詰めを迎えたこの一戦。
 8回表、東海大甲府は9番飯塚 隆哉(3年)の安打、1番高部 瑛斗(3年)の犠打と失策で無死一、三塁のチャンスを作ると、2番福武 修(2年)の勝ち越し適時打で8対7へ。福武はどちらかというと守備の上手さが光っていた選手。切り替えしの速さ、俊敏なフットワークが上手い選手であったが、福武もややタイミングを遅く取るようになり、ボールを呼び込んで最短距離で振り抜く打撃に切り替えて、対応力が広がった。

 そして2番手の松葉行人(2年)は130キロ前後ながらも、低めに徹底的につき、落ちる変化球を交えて強打の静岡打線を凌ぎ、見事に2回戦進出を決めた。

 どちらもハイレベルな能力を持った選手同士で、試合前から勿体ない組み合わせだと思っていたが、一戦を終えて、そう感じさせる試合であった。

 東海大甲府は打撃面の春先からの成長が著しかった。ただ打つだけではない。レベルが高い投手を打ち崩すには何をするべきなのか。それが右打ちであったり、構えを変えて、ボールを見やすくすることであったり、その工夫が感じられる試合であった。
 自慢の強打を封じ込められた春季関東大会の佼成学園戦東海大甲府ナインを大きく成長させるきっかけになったのだ。

(文=河嶋 宗一


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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