試合レポート

星稜vs鹿屋中央

2014.08.19

3回で主導権を握った星稜と、“ニッポン野球”でチャンスを活かせなかった鹿屋中央

 1回表に1点ずつ取り合い、緊迫した試合を予感させた。
試合を決定づけるプレーがあったのは3回表、星稜の攻撃のとき。

 先頭の谷川刀麻(2年)が右前打で出塁。4番村上千馬(3年)は定石通りバントで走者を送ろうとするが、鹿屋中央の捕手・川内大地(3年)はそうはさせまいと二塁に送球する。
これが間に合わずセーフとなり、なおも捕球した遊撃手・吐合駿一郎(3年)が一塁に悪送球し、これがカメラマン席にはまったことで二塁走者のホーム生還が認められ、星稜は貴重な勝ち越し点を得た。
なおも2死後、6番岩下大輝(3年)の内野安打で一、二塁とし、7番今村春輝(3年)の左前打で3点目を奪い、勝負の主導権を握った。

 失策こそあったが鹿屋中央の遊撃手、吐合の守備は光った。
ボテボテのゴロに対してグラブで出した捕球体勢のままランニングキャッチし、その流れの中でランニングスローし打者走者を間一髪アウトにするプレーが2回にあった。4回には深い三遊間のゴロを2つ処理し、守備名人の称号を与えていいと思う。

 星稜のエース・岩下は最速144キロを計測する本格派だが、投球の主体はドローンと斜めに変化する120キロ前後のスライダーだ。
それほどキレがあるようには見えない球だが、鹿屋中央の打者のバットはくるくる回る。投げた瞬間にスライダーとわかるような緩い腕の振りでも、考えてみればストレートのときもゆったりした流れの中で投げているので、打者はどっちの球種がくるのかわからないのだろう。
スライダー以外でも130キロ台前半のカットボールにフォークボールらしき小さく落ちる球もあり、技巧的な部分に光るものがあった。

 この岩下が6回限りで降板すると(レフトを守る)、2番手で登板したのはセンターを守っていた谷川だ。スコアは4対1なので余裕のリリーフというわけにはいかない。
どんな投球をするのか興味津々で見ていると、これがものすごくいい。気は早いが、来年のドラフト候補と言っていいと思う。

 何がいいと言って、ピッチングの流れがよく、投球フォームの中に悪いところがほとんどない。そう言う点ではクセの強い岩下とは好対照と言っていい。
ストレートの最速は142キロ、変化球は岩下と同様、斜め変化のスライダーにカットボール、カーブがあり、8回に徳重 仁(3年)を見逃しの三振に斬って取った球は内角いっぱいの140キロストレートだった。


 この谷川が8回限りで降板し、3番手で登板したのがレフトを守っていた福重巽(2年)。
1死こそ取ったが四球と二塁打を打たれたところで降板。マウンドには再び岩下が上がるというドタバタぶりで興醒めした。

 鹿屋中央では8回の攻撃で「何で?」というプレーがあった。
先頭の代打・西村将太朗(3年)が内野安打で出塁すると1番川崎拳士朗(3年)が何と、送りバントをしたのだ。
8回裏1対4の局面でやることは、ビッグイニングを呼び寄せる波状攻撃しかない。打順も1番に回り、「よし、ここからだぞ」という盛り上がりはあったと思う。それなのになぜバント?

 これは鹿屋中央だけの話ではない。
日本の高校野球は1死一塁でもバント、得点圏に走者がいる1死二塁でもバント、どこを切っても同じ顔が出てくる金太郎飴のよう。ここからしばらく、中学野球の話にお付き合いいただきたい。

 甲子園大会の直前、東京で行われたリトルシニア日本選手権を見て、東京青山リトルシニアの野球に惹き込まれた。
ここはバントで送るだろうという場面で、東京青山ベンチは強打を指示、6番以降の打者が長短打をつらねて7点を奪取したのだ。
3回には2死走者なしで9番打者が死球で出塁してすかさず二盗。さらに死球が重なって一、二塁にし、3番打者のときにダブルスチールを敢行、二、三塁にする場面もあった。

 名簿を見ると監督は元中日などで剛腕と謳われた宮下昌巳。コーチはやはり元プロの前田隆(元巨人)、鈴木望(元巨人など)、スコアラーが江本晃一(元中日)という人たちである。

 野球がチームプレーである以上、自己犠牲を伴うバントは必要不可欠とも思えるが、走者がいる場面で強打してこそ打撃技術が伸びるとも言える。
私にはこの東京青山の野球がいわゆる“ニッポン野球”に一石を投じているように思えて仕方なかった。また、アマチュア一筋できた指導者と元プロの指導者とでは、チャンスメイクの仕方が違うのかもしれないと思った。

(文:小関順二)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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