北照vs京都翔英
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北照・大串和弥投手
近畿を代表するスラッガーを抑え込んだ徹底とした投球術
左の技巧派投手が、大舞台でも渡り合うにはスピードはそれほど必要ではない。『130キロ前後のストレートでも変化球のキレ、コントロールが優れていれば勝負出来る』ことを改めて教えてくれた試合だった。
第43回明治神宮野球大会の開幕戦。
北海道代表・北照対近畿代表・京都翔英の対決だ。
この試合の注目は京都翔英の榎本和輝だ。1年夏から4番に座り、今年の近畿大会の準決勝・龍谷大平安戦で逆転満塁本塁打を放ち、日増しに彼の評判が高まっていた。今回の明治神宮大会で、さらに自分の名を上げる機会が訪れたのだ。
対するは北照のエース・大串 和弥。1年秋からエース格として活躍し、今年の選抜は1回戦で北條 史也、田村龍弘を擁する光星学院と対戦し、3失点に抑える好投。特に北條に対しては4打数1安打に抑えており、強打者を抑えるには自信を持っている。近畿を代表するスラッガーをどう抑えるか見所であった。
1回表、3番山口 翔吾(2年)にライト前ヒットを許し、4番榎本に打席が回ってきた。1球目がボールとなって、2球目は高めのストレート。榎本は、
「逆方向へ打つ意識で、打ち返しました」
と、振り抜いた打球は右中間を真っ二つに破る長打に。一塁走者の山口が三塁を回ってホームイン。1点を先制する。
京都翔英・榎本和輝
しかしこの一打席で北照バッテリーは榎本の特徴を掴み、次へとつなげていった。
大串は「直球には強くて、直球待ちの打者なんだと思い、それからは変化球中心の攻めに切り替えました」
北照バッテリーは榎本への攻め方を一転する。
そして第2打席は2ボール2ストライクからカーブで空振り三振。第3打席もスクリューで見逃し三振を奪った。この際、彼はストレートを一切も投げなかった。変化球を連続で投げて、あえてここぞという場面でストレートを投げて差し込ませると思っていたが、その裏をかく徹底ぶりであった。榎本としてもどこかでストレートが来るという読みがあったかもしれない。何球かは甘い変化球があった。それを見逃していたのを見ると、ストレートに的を絞っていたのだろう。ストレートを一切投げなかったからこそ、あえて榎本に混乱させ、手を出さないことに成功した。
「甘い球があって、打てる球があったんですけど、フルスイングできなかったのが悔しいです」
榎本は見逃し三振に終わったことを悔いていた。
徐々に調子を取り戻す大串を援護しようと北照は4回裏に一死一、三塁から土門愛大(1年)の犠牲フライで同点に追い付く。7回裏には一死一、三塁から9番西谷 圭祐(2年)のライト前タイムリーで1点を勝ち越すと、1番高山 大輔(2年)の代打・澤田 拓海(2年)のライト前タイムリーで1点を追加し、3対1とする。
その後、大串は8,9回を抑えて完投勝利。昨年に続き初戦突破を果たした。
北照・大串が投げ勝つ
完投勝利を挙げた大串だが、内容としては満足いくものではなかったようだ。
「まず立ち上がりは悪かったです。今日はシュート、スクリューのコントロールが悪く、高めに浮いてしまいました。右打者にはそれほど問題はなかったのですが、ベースを覆いかぶさる左打者に対してはシュート、スクリューを投げるのは難しく、左打者には外角中心の攻めになってしまったのは反省点だと思います」
勝ったことで大串は満足してなかった。コントロール、変化球を自信に持ち、打者を打たせる投球術を信条とする大串は速球、変化球のコントロールも完ぺきを求める。
個人的にはストレートのコントロールには苦しんでいたが、変化球のコントロールは素晴らしいと思った。持ち球はスライダー、カーブ、チェンジアップ、ツーシーム、スクリューの5球種。5球種すべてストライクが取れていて、変化球でストライクが取れるのが彼の強みであろう。これほど変化球を操れるのだから、覚えるのは速い?と聞くと
「自分の中で手先が器用だと思っていますし、キャッチボールの中で変化球を覚えて、練習を繰り返して、自分の引き出しを増やしてきました」
と語ってくれた。
投手は手先が器用なのは大きなアドバンテージで、彼はその器用さを最大限に生かし、4番榎本を初回の先制二塁打以外は空振り三振、見逃し三振、レフトフライと手玉に打ち取り、強打者の抑え方を体現した投球内容だった。どんな投球が理想なのか訊いてみた。
「自分は身体が大きいわけではないので、速いボールは投げられません。凄い変化球も投げるわけではありません。なので、色々な球種を使って、コントロール良く投げながら打たせて取ることを意識しています。少ない球数で打たせて取ることが出来た時は気持ち良いですね」
やはり打たせて取る投球を理想とするようだ。彼のやりとりを聞くと非常にピッチングに対して拘りがあって、どういう意図が合って投げたのかという質問に対してもはっきりと答えてくれる。そして大会に対してどういう思いがあって臨んだのか。どう準備をしたのか。クレバーな投手という印象を受けた。
左の技巧派投手が活躍するのは自分の能力、相手の能力を客観視し、自分の能力に過信しすぎず、如何に打者を打ち取っていくかを追求する姿勢ではないだろうか。
「目標、憧れは(東京)ヤクルトで活躍する石川雅規さんです」
168センチの身長で、超一流の左の技巧派として活躍する石川を目標像にあげた大串。さらなる高みを目指し、これからも投球術を極めていく。
(文=河嶋宗一)