鳥取城北vs香川西
「鈍感力」から「敏感力」へのプロセス
「こいつらは匂いや気配を感じるの点が鈍感なんです。たとえば授業前に遊んでいても『そろそろあいつ(先生)がくるから注意しとこう』とか。他にも『これをやったら監督に怒られる』とか。それが分からんのですよ」
試合前日の公式練習を終えた後、香川西・岩上昌由監督は約3ヶ月3年生を全体練習から外すなど、荒療治に荒療治を経て、ようやく甲子園に到達した現チームの弱点を監督だけでなく、社会科教諭という視点も含めてこう表現した。
確かにそうだ。普段の練習や試合会場での態度を見ていても選手たちは極めて礼儀正しい「いい子たち」。ただ、勝負の世界ではそれだけで済まないこともまた事実だ。「3ヶ月間で彼らなりにもがいて、やり尽したように見えたし、その後は組織の中における自分たちのあり方を考えようとしていた」成長過程で、香川大会を制した彼らがどう全国で空気を感じ取り、勝利につなげられるか。香川西側の視点で見れば、この試合では単に結果だけでなく、プレーに至るプロセスが問われる一戦でもあった。
その成果が問われる場面は4回表に訪れる。1回の先制機を4番・山本祐司(2年)と5番・柳智晴(3年)の連続三振で逃すも、汚名返上を期す2人の連打で再びつかんだ一死一・三塁のチャンス。「2回目も強攻で失敗すると流れを相手に渡してしまう」と判断した指揮官は、スクイズのサインを1ボールから6番・西岡大智(3年)に授けた。
が、ここで彼らの「鈍感力」が顔を覗かせてしまう。三塁ランナーの山本はこのサインを見逃しスタートせず。「スタートしていないのがわかったので、自分でセーフティースクイズに切り替えた」西岡がファウルで逃げたことで致命傷にはならなかったが、この1球はスクイズを頭の片隅に置いていた鳥取城北バッテリーに確信を与える1球にもなってしまったのだ。
となれば結果は見えている。次のボール。「スクイズはあると思っていたので打者勝負でインハイを突いた」平田祥真(3年)のストレートは「次は決めると思っていたが、浮いてきた球に反応できなかった」西岡のスクイズ失敗・併殺を招いてしまった。
さらに直後の4回には二死から先発・林秀樹(3年)が4番・佐藤晃司(主将・3年)から5連打を浴びて3失点。「ああいう形は想定していたのに、止められなかったのは経験不足だし、私の責任」と、岩上監督は自らを責めたが、少ないチャンスを決めきる野球を標榜する香川西にとって、2度目の先制機を逃したショックは想像に難くない。
こうして鳥取城北に初の甲子園1勝と鳥取県勢9年ぶりの夏勝利を献上した香川西。だが、この一敗も「甲子園に出る」から「甲子園で勝つ」チームになるためのプロセスと考えれば、決して悲観する必要もない。そのためには甲子園での経験を踏まえて「鈍感力」を「敏感力」に変えることが不可欠。今後の彼らには「同じ場面でも緊張してできない場面もあった」下級生唯一のベンチ入りメンバー山本を中心に、日々感覚を研ぎ澄ます習慣をぜひ身に付けてほしい。
(文=寺下友徳)