試合レポート

福井工大福井vs常葉橘

2012.08.08

ミートポイントについて改めて考える

1回表、福井工大福井が怒涛の攻撃で3点を奪い、勝負を決めた。
特徴的だったのは、福井工大福井打線が見せた投手寄りのミートポイントで打つ“前さばき”。ここ数年主流になっている、おっつけてからの逆方向ではなく、引っ張り打法で常葉橘が繰り出す投手陣を攻略した。
0対0で迎えた1死一、二塁の場面では、4番山下憧真(右投右打)がスライダーを打って左前タイムリー、5番馬場稔樹(右投右打)がストレートを打って左前タイムリーで2点目という具合である。

 例外だったのは1番菅野真史(左投左打)と7番菅原秀(右投左打)の2人。選手のタイプ、技術レベルによっては何が何でも前さばきで打てとは言わず、捕手寄りのミートポイントで打つことも許す。選手を技術面だけでなく、心も解放している、そういう印象を受けた。

この前さばき、福井工大福井だけでなく、第2試合の広島工飯塚の各打者も取り組んでいた。高校野球ばかりではない。プロ野球のDeNAも、投手寄りで打つことのプラス要素を模索しているふしがある。実は今春の選抜大会で、多くの打者が捕手寄りでミートする姿を見て違和感を覚え、次のような記事を書いた(以下、対象にした選手は九州学院萩原英之)。

「これから先の木製バット使用を考えれば、極端な捕手寄りのミートポイントは改めたほうがいい。プロ野球選手の肉体作り、スイングスピードをものにして初めてチャレンジできる領域、それが“極端な捕手寄りのミートポイント”だと思っている」
(参照:九州学院vs女満別 試合レポートより)

投手寄りで打つのと捕手寄りで打つのと、どちらのレベルが高いかと言えば、捕手寄りのミートポイントで打つほうがレベルは高い。しかし、すべての高校生が捕手寄りで打っても強い打球を飛ばせるわけではない。福井工大福井の指導者が偉いのは、すべての選手に同じ打ち方をさせず、そのレベルによっていろいろな打ち方を許容したことである。それが1回表の集中打につながり、勝負を決した。


投手で目立ったのは福井工大福井のエース、菅原秀である。
大会前、専門誌などは「ストレートの最速148キロ」ばかりを話題にしていたが、この日目立ったのはむしろ変化球。ストレートは無走者のときで3割程度だろうか、とにかくストレートの割合が少ない。そして、走者が出ればさらに変化球の頻度は上がり、ストレートは見せ球程度になり下がる。

なり下がるが10奪三振のうち、ストレートで奪ったのは4個と多い。変化球でカウントを作り勝負球はストレートという配球が功を奏したのである。
変化球は多彩だ。カーブは縦に落ちるナックルカーブとスタンダードな斜め変化のカーブと2種類備え、カーブと同じスピード帯のスライダーがあり、ここにチェンジアップを交え、打者の目を翻弄する。

ただし、投げ終わったあと体が一塁側に流れ気味なので、右打者の外角、左打者の内角方向にボールが集まる傾向がある。これを次の秋田商戦までに直せるかどうか、重要なポイントになる。

常葉橘では1番木村聡司(1年・右投右打)、3番城戸健太朗(右投左打)、2番手投手の高橋遥人(2年・左投左打)の3人に注目した。
木村は菅原の球質、配球に慣れた第3、4打席にライト、レフトへ強いライナーを放ち、将来性をアピールした。城戸は2年前の二塁手ではなく、今年は捕手として甲子園に登場、イニング間の二塁送球で1.90~1.98秒の強肩を再三披露し、うまい選手はどこを守ってもうまいと感心させられた。

この城戸にリードされた高橋は杉内俊哉(巨人)を思わせるストレートで4回3分の1を投げ、3安打、4三振、0失点と結果を残した。
ストレートは135、6キロがMAXだからスピードガン的な速さはないが、4三振の結果球がすべてストレートで、そのうちの3個は空振り。前肩が開かず、ボールの出所が見えない独特なフォームで攻め続け、火の点きかけた福井工大福井打線をみごとに沈静化させた。181センチ、65キロの体格にあと10キロ体重が加わったら、ストレートはさらに強力な武器となって好打者たちの前に立ちはだかるだろう。

(文=小関順二)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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