試合レポート

神村学園vs加治木工

2012.07.28

勝つための「武器」の豊富さ

神村学園がこれまで練り上げた勝つための「武器」の豊富さが、随所に発揮された。

4回の先制点は、このチームのいわば「原点」と呼べる理想的な点の取り方だった。
簡単に二死とられて6番永尾稜(3年)は「左打者は打ちあぐねるだろうから右打者がカギになる。フライを打ち上げないようにゴロを打つことを心掛け」2打席連続のレフト前ヒット。
山本常夫監督は7番中園史剛(3年)に初球・エンドランのサインを送る。
「本当はストライク、エンドランだったんですが…」(山本監督)と中園はボール球を強引に右方向へ。外野が下がっていた分、間に落ちるポテンヒットになった。
一、三塁でOKの場面だったが「ライトからの返球がふわっと浮いたので、絶対ホームに行けると思った」永尾は一気に本塁を陥れた。

このチームが発足した当初から「少ないヒットで効率よく点をとる」(山本監督)ために、足を生かした攻めを追求してきた。加治木工の左スリークオーターの上原滉平(3年)は左打者の多い神村には攻略の難しい投手だったが、打てないなら打てないなりの攻略法を出してくるところにこのチームの非凡さがうかがえる。
「打線は水物。足にはスランプがない。理想的な先制点でした」と話す山本監督。

柿澤貴裕(3年)、平藪樹一郎(3年)の投球には「修正能力の高さ」があった。
先発の柿澤は序盤、高めに浮いた直球を狙い打たれて1、2回と得点圏に走者を背負った。直球が走っていないと感じると、3回以降はスライダーなど変化球主体の投球にすぐさま切り替えた。左打者にはブレーキのかかったシンカーが効果てきめんだった。
「前は打たれるとカッとなってむきになって勝負にいってたけど、今は打たれてもすぐ切り替えて、淡々と投げられるようになった」と山本監督はエースの成長をそう評する。
ちなみに柿澤は2打席連続で抜いたスライダーを打たされて凡退だったが、3打席目は「しっかり呼び込んで」(柿澤)二塁打を放ち、3点目の起点になっている。

準々決勝ではふがいない投球で3回ノックアウトだった平藪は「右足にじっくり体重が乗り切らないうちに投げ急いでいた。しっかり右足に体重を乗せて腕が振れるようにフォームを修正した」。8、9回とリリーフで登板して無安打、3三振と復調をアピールした。
「これで少しは信頼を取り戻せたかも」と安堵の表情を浮かべていた。

準々決勝まで辛勝続きだったが、ようやく神村らしい勝ち方ができるようになってきたことを印象付けた準決勝だった。

(文=政純一郎)


役者は揃った

この夏、鹿児島の大本命と目される神村学園が順当に決勝進出。しかも、決勝を前にして完全に役者が揃った印象を抱かせる。

平藪樹一郎との背番号1争奪戦に勝利した柿澤貴裕は、この日も7回をゼロに抑えた。140キロ前後の直球に速度差のあるシンカーを絡めて、大会前の目標として掲げた「大会を通じての無失点」を依然として継続中だ。
「直球の制球力。コースへの変化球。これらが大会に入って成長している気がします」

 一方、夏の大会が開幕してもなお状態が上がってこずに苦しんでいた平藪は、4点リードとなった8回から登板し3つの三振を奪い無失点。直球、スライダー、カーブともに低目に集め、とくに追い込んでからの変化球がものの見事にキレた。
「NHK旗の2回戦(対鹿児島川内)以来のキレでしたね」
 5月に行なわれたNHK旗の後、フォームのバランスを崩し、キャッチボールや遠投でフォーム確認を繰り返してきた平藪。今春のセンバツではエースナンバーを背負った左腕は「長い回を投げられるメドが立った」と自信を取り戻したようである。

 その平藪と準決勝前日に深夜1時まで個人練習を行なったのが新納真哉。走攻守のすべてで高水準のパフォーマンスを発揮し、センバツでは1番打者を担ったチームの中心選手だ。しかし、今大会では当たりがピタリと止んで、ついに準々決勝でスタメンを落ちてしまう。
 途中から中堅守備についた新納は、この日の初打席となった7回に右線へ引っ張っての三塁打を記録。山本常夫監督が「新納に一本出たことが一番嬉しかった」という、チームに勇気を与える刺激的一打となった。

 さらに、センバツでカルチャーショックを受けたという健大高崎の機動力野球を参考に「常にふたつ先へと進める走塁」も、しっかりとナインの間に根づいてきた。4、5回に挙げた得点はそれほど深くない外野へのゴロヒットに対して二塁走者が一気に本塁を陥れたものだった。

「24日に終わっているはずの大会が、今日(27日)になってもやっている。この間に、各県で大本命とされたチームがあれよあれよと姿を消していきました。そうした誰もが驚く敗戦の報に触れることで、チーム全体の気持ちが強く引き締められた気がします」
 と、山本監督。準決勝の時点では、メンタル面の隙は見受けられない。

「決勝(鹿児島実)は左打者が多いチーム。今日の平藪だったら充分に戦える。決勝は柿澤か平藪か。ひと晩ひっくりと考えます」(山本監督)
準々決勝では大会ナンバーワン右腕の江口昌太を攻略した。準決勝は2投手による完封リレー。その原動力となったのは、帰ってきたふたり。決勝を戦うための戦力が、確実に揃ってきたというわけである。

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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