試合レポート

光星学院vs徳島商

2011.08.16

甲子園で勝つためには

 甲子園は、広い。

それはわかっていた。
だが、身体が反応しない。どうしても、「遠い」と感じ、手が出なかった。

初戦となった2回戦の藤代戦。徳島商打線は、打順がひとまわりする間に2つの見逃し三振を喫した。
いずれも、見逃し三振。
徳島大会では5試合47イニングで12個しかなかった三振が、3イニングで2つ。相手投手が驚くような球を投げているわけではないのに、なぜ簡単に三振してしまうのか。6番を打つ咲田瑠星は言う。
「徳島はストライクゾーンがかなり狭いんです。(見逃し三振をした球も)ボールだと思って、手が出ませんでした」

高校野球はストライクゾーンが広い。技術が未熟な分、広めに取らないと試合が進まないからだ。
甲子園は1試合を2時間で終わらせる前提で試合開始時間も設定されているため、特に広い。
右打者なら、外角は左打者のバッターボックスのホームベース側のラインの上あたりまでストライクといわれることは覚悟しなければならない。それが甲子園のストライクゾーンだからだ。


ところが、ストライクゾーンが広いはずの高校野球で、そうでない県もある。それが、徳島県だ。きっちりとベースの上を通る球だけをストライクに取る。
他県とのあまりの差に、徳島県内の指導者たちから戸惑いの声を聞くことも少なくない。
「四国大会や甲子園に行くとストライクゾーンの違いで選手たちが戸惑う」
「いい球をボールと判定されるため、いいピッチャーが育たない」

光星学院戦は、ストライクゾーンが広い影響が出た。
最速146㌔の川上竜平、最速147㌔の秋田教良はともにスライダーとカットボールが武器。必然的に右打者へは外の球が多くなる。得点した2イニングは高めに浮いてきたカットボールをとらえたが、それ以外のイニングでは外中心の配球とわかっていながら対応できなかった。

特にこの試合で苦しんだのが4番の佐藤健人
初回は2死二塁、5回は1死一塁、7回は1死一、三塁と走者を置いて迎えた打席ですべて空振り三振に倒れた。外角のボールと思った球をストライクと判定されて、最後はスライダーを振らされるパターン。わかっていても、最後まで修正できなかった。
「追い込まれる前に打とうと思ったんですが、ストレートも速いし、見極めができませんでした。追い込まれたら(多少ボールでも)手を出さなきゃと思った。ボール球に手を出しすぎました。ストライクゾーンは広いと聞いていましたが想像以上。ボール2個分は広いと思います。(対応は)難しかった」


 一方の光星学院は春夏連続の出場。甲子園のストライクゾーンにも慣れている。
中でも、対応力と技術の高さを見せたのが4番の田村龍弘。3回は外のスライダーを二遊間へ。あまりの打球の速さに右中間フェンスまでゴロで到達する三塁打になった。さらに、7回には外角のストレートをライト線へ運ぶ二塁打。7回に打った球は徳島商の捕手・竹内翼が「ボール1個分は外れている」という球だった。
「ボール球でもいい球は打たれました。見逃すと思ったんですけど」(竹内)

多少ボール気味でも、打てる範囲なら積極的にバットを出す。踏み込んで思い切って打つ。こういう打撃ができていた。田村は言う。
「自分の場合、インコースは反応できるので、アウトコースを意識して待っています。龍田投手は球の勢いがあるので、大きいのを狙わず、外角の低めを右方向という意識に切り替えた。うまく手首をかえせたと思います」

田村の後を打つ5番の北條史也も2本の二塁打。
北條は青森と甲子園のストライクゾーンの違いを「ボール1個分ぐらい低めに広いと思います」と言った。外角はそれほど違いを感じていない。
「外の球は、ぎりぎり(までひきつけて)ファールになるぐらいの感じで右方向を意識しています」

青森と甲子園なら甲子園の方が広いが、徳島と甲子園ほどの違いはない。
それほど過剰に意識しなくても、自然と反応、対応ができていた。


昨年、春夏連覇した沖縄・興南も「外角は多少ボール気味でも打てる範囲の球は打っていく」とボール1個分、外にゾーンを広げて練習していた。
徳島のチームにもそういう意識がないわけではない。
だが、県大会と甲子園での差が大きすぎると選手たちは戸惑ってしまう。

池田を筆頭にマンモススタンドを沸かせた徳島勢。
だが、2006~10年の5年間で春夏通算1勝8敗と低迷している。
全国で結果が出せないのは、こういうところにも原因がある。広いストライクゾーンでのびのびと投げていた龍田祐貴は、甲子園で自己最速を5㌔も上回る148㌔をマークした。
大会前は注目されていなかったが、一躍ドラフト候補にまで浮上した。
広めのゾーンは投手を育てる要素になりうる。

攻撃側から考えても、狭いストライクゾーンを狙って腕が振れない投手と対戦するより、やや広めのゾーンで、思い切り腕を振って投げる投手と対戦した方が、打撃力も上がるはず。
甲子園で戦うために、甲子園と同じような状況で普段から勝負させてあげる。県のレベルアップ、徳島再建のためには、全国レベルを見据えた環境を整えることが必要。
その第一歩として、県内のストライクゾーンの見直しを検討してみてはどうだろうか。

(文=田尻賢誉)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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