試合レポート

立命館宇治vs福知山成美

2011.05.16

立命館宇治vs福知山成美 | 高校野球ドットコム

エース福本拓也(立命館宇治)

勝てば甲子園の夏を〝イメージ〝しながら

「投げてこないと思っていました」(福知山成美・田所孝二監督)
「心中しようと決めていました」(立命館宇治・卯滝逸夫監督)

両指揮官が発した言葉は、立命館宇治のエース・福本拓也(3年)を指してのことである。決勝戦は準決勝から2日連続での試合。飛び飛びで日程が組まれる春の京都府。両チームとも2日連続の公式戦はこの日が初めてだった。
絶好の機会と捉え、エースをあえて連投させた卯滝監督。

 一方で田所監督は、エース津田響(3年)ではなく、準々決勝(龍谷大平安戦)で先発した山田菖太郎(3年)をマウンドに送った。
「強い相手にどこまでのピッチングができるか」と田所監督は意図を話した。ただその裏側は、エースの連投にやや不安を持っている表れでもある。実際に津田はここ2試合と同様に、後ろで投げることになった。

両チームともチャンスを作りながら、その度に両先発投手が踏ん張り3回まで0行進が続く。
3回裏、福知山成美は9番山田の打順で北口恒生(3年)を代打に送った。4回表からマウンドに上がるのはエースの津田。三位決定戦(搭南対京都外大西)と同じく、投手への代打から試合は動くことになる。

その津田の代わりっぱな、6番溝端茂樹(3年)のタイムリーで1点を先制した立命館宇治
追う福知山成美は5回に3番桑原将志(3年)のセンターオーバーへの三塁打で同点に追いついた。

ゲームは後半、エース同士が投げ合う展開になる。
甲子園に直結しない春とはいえ、これは決勝。勝てば甲子園が決まる【夏】をお互いがイメージしあったようなせめぎ合いが7回以降は多くみられるようになった。
7回表、1死2、3塁から津田の暴投で勝ち越した立命館宇治。暴投はスライダーがワンバウンドしてのものだったが、三塁走者の田中大也(1年)は抜群のスタートを切って生還した。田中の『何としても勝ち越しのホームを踏みたい』という気持ちが全面に出た場面だ。

その裏、福知山成美は2死走者から1、2番がヒットを放つと、3番桑原が右中間を破る二塁打で逆転に成功する。重要な場面で最もチームで信頼厚き男の一打。福知山成美ベンチが一気に活気づくとともに、立命館宇治陣営はこの局面での桑原に対する攻め方を、身を持って勉強したはずだ。
その後、マウンドの福本は二人に四球を与えて満塁のピンチを背負うが、6番工藤優介(3年)を空振り三振に切って取る。この攻防が9回への伏線にもなった。

8回は両チーム無得点で試合は9回へ。
津田は5イニング目となる8回を投げ終えた時点で87球。前日の準決勝(京都外大西戦)同様、立命館宇治打線は、しっかりと球を見極めて津田の球数を多くする策を講じていた。


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9回表立命館宇治、同点のホームを踏む松井

しかし9回表、1番土肥純平(3年)、2番花岡紘一朗(2年)があっさりと倒れる。マウンド上、津田の2アウトを示す左手が大きく上がった。
春ではあるが〝イメージ〝はあと一つのアウトで甲子園出場である。立命館宇治にとっては追いこまれた形になった。

打席は3番松井悠真(2年)。3球目、津田のスライダーを打ち返してレフト前へ運んだ。
わずかな空気の緩みを感じていたのは福知山成美の桑原主将。それが現実となったか、4番古川昂樹(3年)のセンター前ヒットを処理しようとした幕谷昂大(3年)がファンブルして1、3塁になった。

打席はこの日無安打の5番西村幸樹(3年)。その初球、「勝負」と睨んだ卯滝監督は一塁走者の古川を走らせる手を打った。これが見事に決まり2、3塁。
「(一打で逆転を作って)相手にプレッシャーをかけたかった」と卯滝監督。あと一つのアウトで試合が終わる場面で、まさに勝負をかけた博打である。
古川の盗塁の余韻が冷めぬ2球目、津田が投じた直球がやや甘くなった。

これを見逃さなかった西村。打球はレフト線へポトリと落ち、二者が生還。一塁ベース上で西村は拳を握りしめた。
「(2死になって)勝ち急いでしまった」とマウンド上の津田は悔やんだ。2死走者なしからの、野球の怖さを誰もが痛感した場面でもあった。

だがその裏、今度は勝ち越した立命館宇治が、1点を守り切る難しさを味わうことになる。

先頭の1番平野謙介(3年)が二塁打を放つと、2番西田晃太郎(2年)の内野ゴロで1死3塁となった。
マウンド上の福本はこの時点で130球を超えた。前日も120球で7回完投しているだけに疲労はピークで、制球も悪くなってきていた。
打席は2安打3打点の桑原。
立命館宇治は内野手の判断で、タイムアウトを取る。

桑原と勝負するのか?しないのか?
出した結論は厳しいコースを突きつつ、勝負をしない。

その背景には7回の攻防にあった。当たっていないのは4番と6番。4番の奥田史弥(3年)はすでに途中交代で退き、6番の工藤は7回に三振に取っている。そうなれば注意すべきは5番の幕谷だけ。これは立命館宇治陣営だけでなく、福知山成美の田所監督も同じ見方をしていたことを試合後に話している。


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表彰式 優勝旗授与・立命館宇治 古川主将

結局、桑原はサヨナラの走者として出塁。田所監督は代打に遠藤匠(2年)を送るが三振に倒れて2死となった。
ここで注意する幕谷を歩かせて、あえて満塁策を取った立命館宇治バッテリー。打席には工藤が立った。福本の2球目、工藤のバットは芯で捕え大飛球となるが、体の開きがわずか早くファウルに。「ヒヤヒヤしていた」と心境を話したのはベンチで見つめる卯滝監督。

しかし冷静だったバッテリーは4球目。福本の気持ちを籠めた直球を、工藤はライトへ打ち上げてしまい、1点を巡る最終回の攻防は終わった。
「秋に敗れた福知山成美に勝ててうれしい」と笑顔を見せた福本。

一方で、「(桑原を生かす)打順もこれから考えないと」と田所監督は語った。

エースを連投させて、真剣に勝ちにいった立命館宇治。連投にやや不安があるエースを、あえて後ろに残すという形をとった福知山成美

試合前の思惑は様々だが、展開としては色んなことを体験できる最高の形となった。

気候こそ違うが、夏の決勝地で、しかも準決勝と決勝の連戦という夏と同じ状況だった春の決勝戦。田所監督は、「立命館宇治さんとは夏も決勝でしか当たらないんですよね」といつものような口調。

それでも試合中、常に夏の決勝をイメージし、終わってから【本当の夏】だったらどうするかを反省するという意味で大きな試合になったのではないだろうか。
 試合になるとスイッチが入る選手の姿を見ていると、やはり春の大会でも真剣にぶつかり合うことが一番大事なのではないかと感じる一戦であった。

(文=松倉雄太

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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