延岡学園vs塩田工
岩重章仁(延岡学園)
岩重章仁、衝撃のデビュー弾!!
「今大会はドラフト候補が少ない」
との前評判から、なかなかボルテージが上がらないまま幕を開けたのが2011年春の九州大会だった。しかし、そこは天然素材の宝庫、九州だ。次から次へと、次代を担うスター候補は、いくらでも沸いて出てくる。
4打数3安打、6打点。そして2本塁打!
180cm、78kgの1年生、岩重章仁(延岡学園)が超ド級のインパクトとともに大舞台デビューを飾った。
4月11日に入学したばかりの新一年生は、この試合が練習試合を含めての通算4試合目。
5番に抜擢されて臨んだ初の大舞台で、岩重はいきなり結果を残した。
「並の1年生であれば、あんなチャンスで初球のカーブをヒットにはできないでしょう」
と重本浩司監督が評価した初打席は、初回に一死満塁で巡ってきた。
「初球をカーブで取りに来ることは分かっていました」(岩重)
狙い済ましていたとはいえ、九州レベルの高校生投手が投じた変化球を、いとも簡単に中前に弾き返しての先制適時打を記録したのだ。
そして、鹿児島がどよめいた2打席目である。一死二塁、カウントは3ボール0ストライク。ここで不用意にストライクを取りに来た塩田工・伊東真徳のストレートを、逆方向の右中間へ押し込んだ。真ん中高めのホームランボールだったとはいえ、打球はライナー性の凄まじい弾道を描きながら右中間のフェンスを越えていく。
7回の第4打席では、初球の真ん中低目、やはりストレートをジャストクラッシュ。打球は失速する間もなく左中間フェンスの向こうで弾んだ。
最終打席は9-3と試合の趨勢がほぼ決した後の9回一死無走者の場面で回ってきたが、ここではなんと勝負を避けられ敬遠で歩かされる始末だ。
「手応えとしては最初の一発が良かったです」
しっかりと踏み込んで、立てたままのヘッドで叩き落した逆方向への強い押し込み。内容も迫力も、とてもつい先日まで中学生だった15歳とは思えないものがあった。
岩重章仁(延岡学園)
重本監督は岩重を5番に起用した理由を「長打力はもちろん、とにかく魅力にあふれた選手。4番・濱田晃成の後ろを打つことで、濱田からいろんなものを吸収して成長してほしい」と語っている。昨夏甲子園に出場し、10打数5安打を記録した九州を代表する好打者の背中から、一流へステップするためのきっかけを掴んでもらいたいとの期待を込めているのだ。
「濱田さんのスイングスピード、ミート力は本当に凄いです」
と岩重。一方の濱田も、この試合で3打数2安打、1打点。
「後ろに岩重が入ってから、自分はずいぶんと楽な打席を過ごせています」
と、その効果の大きさを実感している様子だ。
宮崎市立大束中時代は軟式部に所属し、三塁手、捕手、投手を歴任。当時から長身で、日本ハム・中田翔に憧れる大型打者だったが、小中学校を通じての柵越え経験はゼロ。
大一番で一気に開花した天性の素質に、鴨池市民球場全体が呆然とした空気に飲み込まれた感すらあった。
突如現れた長距離砲に誘発されて、九州国際大付・高城俊人、鹿児島実・揚村恭平、九州学院・萩原英之ら九州を代表する強打者たちのバットが活発化するのではないか。
「2011春の九州は打撃戦になる!」
これ以上ない、開会宣言である。
(文=加来慶祐)