Column

大野 雄大投手(京都外大西-中日ドラゴンズ)「いつでも『何くそ』の気持ちで這い上がる姿を見せてほしい」

2015.12.17

 ストレートが武器の左の本格派・大野 雄大は大学3年秋の神宮で九州産業大を2安打完封、全101球の内90球がストレートという圧巻の投球を披露し一躍その名をとどろかせた。翌年夏に左肩を痛め4年秋のリーグ戦で登板無しに終わるも、その潜在能力の高さを認められドラフトでは中日から1位指名を受ける。プロ野球人生はリハビリ生活からのスタートとなったが、3年目からは3年連続の2桁勝利を挙げ、今季の投球回数207回3分の1は12球団トップ。先日のプレミア12でも日の丸を背負った。今大会の代表メンバーで左腕は2人だけ。今や誰もが認める日本屈指の本格派左腕である。

 しかし京都外大西高校時代は背番号1をつけることは無かった。コーチ、監督として高校時代を知る上羽 功晃監督の目に大野の姿はどう写ったのか。

登板ができず、満足出来なかった甲子園準優勝

京都外大西・上羽 功晃監督

 第一印象は手足が長くてちょっとやんちゃそうなやつが入って来たなぁという感じでしたね。その時は三原先生(三原 新二郎前監督)が監督で僕はコーチだったんで、コーチとして1年間は付き合ってたんですけど生徒指導で関わる方が多かったですね。ちゃんと走れとか、あいさつはこうやとか、何とかかんとかっていうのはよう話してた気はしますね。

だから今の姿は想像出来ないですね。あの時はプロになれるとは僕は全然思わなかったですから。

 僕自身、大学からプロへ行く選手というのは見たことがありますけれど、その時の大野は手足の長い、やんちゃそうな、軟式上がりのやつが来たなっていうぐらいの程度ですね。プロへ行くという感じはしませんでした。

 大野の2つ上が大谷 侑というピッチャーと南 裕貴というキャッチャーで久々に甲子園に行ったんです。だから入って来てすぐは投げる、投げないという段階では無かったと思います。新チームになって左ピッチャーがいなかったですから、三原先生が多分、手足長いしベンチに入れたのかなと思っています。

またコントロールが悪かったんです。だから2年夏、甲子園で準優勝した時もベンチには入ってましたけど、でもあいつの中では満足いってないんじゃないですか、全然放ってないんで。

 ずっと競ったゲームでしたので、北岡 繁一と1年の本田 拓人の2人が中心でしたね。大野が放った記憶は無いです。コントロールが無かったんで多分、ゲームを作れるというふうには三原先生は思ってなかったと思います。左ででかい、将来もしかしたら化けるかなぁというので経験させたろとベンチに入れていた感じだと思います。

 ただ、だから悔しそうではありました、ものすごく。そこはものすごく覚えてますね。だから自分らが一番上になった秋は頑張ったと思うんです。1つ下の本田も夏けっこう投げたりケガしたっていう部分もあったんで本調子じゃない、だから大野が放らなきゃいけないみたいな状態になっていましたので、先発機会も増えました。
準優勝しても本人には何の満足感もなかったんで自分がやらないとあかんと思ってたように見えましたね。

 最後の夏、コントロールの良い安定してた北岡が京都すばる戦で先発して、フィールディングもすごい上手い子なんですけど、フィールディングに失敗して序盤に3点取られたんですよね。8回ぐらいまで負けとって、大野の中学校からの同級生やった吉田 恭太が逆転タイムリー打って、そこから大野が涙流しながら放っとんですよ。泣きながらエイヤっていきよるんですけど、そのボールがうなってるんですよ。めちゃくちゃ気持ちが入ってましたね。あれが僕らも甲子園行った時よりもその試合が印象に残ってますね。

 僕らも「うわぁ、北岡で負けるか」と、でも最後に逆転して大野が泣きながら抑えてる姿見たらこっちも感動しちゃって。あれはええ試合でしたね。最高の試合です。ただオチがあるんですけど、その試合勝ったんでもう間違いなく甲子園やなぁと思ったんですけど次が福知山成美戦で、その時、力関係としてはうちの方がだいぶ強かったと思うんです。

でもどう表現するかは難しいですが、大野が悔いの残る1球放るんです。1ボール2ストライクからキャッチャーが立ったんです。キャッチャーはつり球だと思ってるんですけど、大野はそこら辺にスッと行ったんですよ。そしたらそれを打たれてしまい、スリーラン打たれたんですよ。それが決勝点になりまして、ここでこの代の夏が終わりました。

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[page_break:学校でも中心的な役割を担う]

学校でも中心的な役割を担う

グラウンドの様子(京都外大西高等学校)

 昔なところがありますが、野球部ではレギュラーのメンバーとか入ってたら6月にある体育祭の応援団とかはやらないんですよ。大事な夏前に練習に行かない日があるのはもったいない。でも大野は応援団長とかやっていました。そういう役割が好きやったみたいですね。

 そういう話を聞くと、練習は怠けていたのかと思うかもしれませんが、練習に関して言えば、とにかくよく走っていた記憶がありますし、ブルペンに入ったら、例えばアウトコースに続けて5球か7球か放れなかったら上がられへんと言ったら、ホンマ400球でも500球でも放っていた記憶もあります。

 もしかしたら練習終わったら遊びに行っとったかもしれんけど、練習の時にそれが出るようなことは無かったですね。授業で大野のクラスに行くことは無かったので、普段の様子はわからないんですけど、学校の中でも結構中心的にやっていたかもしれません。
だから頭丸坊主にして一生懸命走ってという感じじゃないですね。体育祭の団長していて、まさか打ち上げ行くなよって話しているのに行くんですよ、あいつ。

 でもあいつの良いところは友達をすごく大切にするやつなんです。だからいろんなしょうもないことをしてる割にはみんなに好かれてるんですよね。それはやっぱりいろんなやつに対して思いやりがあったと思いますよ。
ジャパンの中でも高校の時と同じようなキャラクターなのは変わらず、あんぽんたんなことやってもみんなから好かれる、あれは人徳ですね、ホンマに。

 お母さんもよく観戦に来られてましたね。ほんで多分、ものすごく可愛がっていたと思います。だからあいつ親をものすごく大事にしていますからね。そういった意味ではとんでもない悪さはしないと思います。迷惑かけたらあかんと思っていますから。

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[page_break:2番手の存在から日本のエースへ]

2番手の存在から日本のエースへ

上羽 功晃監督(京都外大西高等学校)

 大野が成長したのは大学入ってからだと思いますね。高校の時は140キロは出てないと思います。130キロ台後半です。大学行ってから体ができたのが、でかいんじゃないですか。

 あいつのかわいいところは、大学に行っても節目節目にグラウンドに来よるんですよ。ほんでいろいろ連絡してくれる。背番号もらったとか、リーグ戦初めて投げましたとか。それがものすごく嬉しくて、人の情とかそういうものに機敏なところがありますね。ちゃんとしなければならないところはよくわかってるやつですね。

 今回プレミア12に行ってくれてものすごく嬉しかったのは、あいつ常に2番手だったんです。大学の中では大エースなんですけどリーグが主要リーグと比べると全国的には多分2番手のリーグなんですよね。大野のすごさは4年春に神宮で東北福祉大を抑えて十分証明されてたにもかかわらず、大学代表から落ちとるんですよ。その時にものすごく悔しそうやったんです、あいつ。

 僕も悔しかったんです。こいつええのになぁとか思いながら。だからあいつ中日にドラフト1位で行ったとしてもあの年注目されてたのは、斎藤 佑樹(早大)、大石 達也(早大)、澤村 拓一中央大)ですよね。そいつらがドラフト戦線の目玉で大野はもうひとつ注目を浴びることもなく、もちろんドラフト1位なんですごいことなんですけど、でもやっぱり他のやつらに比べると「いつかやったる」と思いながらやってたと思うんですよね。

 それが、今回ジャパンのユニフォーム着てひとつ、達成したのかなと。ただやっぱりその中でもあいつの使われ方というのが自分では満足していないでいてほしいです。そしたらまだ上にね、今度はワールドカップなのかオリンピックかわからないですけどその時になにくそと思ってるのが良い結果になってほしいなぁと思いますね。
高校では北岡、本田の影、大学ではリーグの力関係というかそういうものに翻弄されてるというかずっとなにくそと思ってたやろうし、ジャパンに選ばれたことはホンマに素晴らしいことなんですけど放ったのは多くないですからね。そういう悔しさをまたバネにしてくれたなぁと思いますね。

 この前、結婚式に呼んでくれて谷繁 元信監督が横におって話を聞いてたんですけど、プロでも去年とか一昨年ぐらいまではちゃんとした変化球が無いんでプロ野球選手も大野の時は全員、真っ直ぐ待っとると。それでも、それなりの結果を残せるのは相当、真っ直ぐの強さがあるという気がしますね。

 プロでもハイレベルな真っ直ぐがあるので、ホントにもう1つ上に行こうと思ったら絶対的な変化球がほしいですね。ウイニングショットがあれば日本のエースと言われるようなレベルになれるんちゃうかな。僕らも大野が頑張ってるのはものすごく嬉しいし、頑張ってる姿を長く見せてほしいなと思います。

 今季自己最多の11勝、3年連続で二桁勝利を挙げた大野。契約更改では6300万円増の年俸1億800万円と名実ともに一流選手となった。来季は選手会長としてチームを引っ張る立場となった大野。さらに進化した姿を、お世話になった方へ披露する。

(取材・構成=小中 翔太


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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