宜野座vs宮古
宮古先発の山里弘一
無敵の横綱・宮古を倒した宜野座!その勝利の要因は”素直さと心”
新チームとなって無敗を続ける第一シード沖縄宮古は、山里弘一・久貝拓夢の強力二枚看板が秋季大会に入っても好調を維持。
3試合28イニングで僅か1失点とその難攻不落ぶりは健在。打線も初戦こそ与勝の前に9イニングで1得点と苦しんだが、その後の2試合では13得点をマーク。投打共に盤石の状態でベスト4進出を決めてきた。
対する宜野座は、中部商戦で完封した左腕嶺井を中心に守り勝ってきた。1〜3回戦までは一桁安打だった打線は、準々決勝の美里工戦で16安打と爆発。先発全員安打で圧勝し、良い雰囲気で王者へぶつかることが出来た。
少し余談だが、ここ沖縄では新人中央大会で優勝したチームは秋には勝てない(優勝出来ない)と言われてきた。2大会連続で優勝を達成したのはかれこれ10年前になるのだ。その2002年に二冠を達成したのが実は宜野座だった。その野望を目論む沖縄宮古の前に、時を経た宜野座がたちはだかることになった!
二日前に38度の熱発
先攻は宮古。宜野座先発は左腕嶺井辰之輔。中々点が取れない沖縄宮古が相手となると、嶺井がどれだけ沖縄宮古打線を抑えていけるかがこの試合ひとつの焦点でもあった。
だがこの日の嶺井は、これまでとは別人のようなピッチング。球は走らないし、生命線である制球もバラバラで甘いコースを痛打されていく。沖縄宮古の2番池間恕士(いけま・ひろし)に高目に入ったカーブを左中間へ持っていかれると駿足を魅せて一気に三塁を陥れた。続く3番佐和田一磨には簡単にセンター前へ運ばれ先制点を許してしまった。牽制悪送球で二塁へ進められたあとモーションを完全に盗まれ三塁盗塁を許し、さらに連続四球でニ死満塁とピンチを招いたが、一邪飛と嶺井は何とか最小限の失点で切り抜けたが、沖縄宮古にしてみればここで一気に畳み掛けることが出来なかったのが、後々まで響く結果となる。
宜野座・東 亮(あずま・りょう)監督
「タツは木曜日に38度の熱が出て、この日はぶっつけ本番でした。」
九州切符が懸かる大事な戦いを前にしたエースの突然の熱発。幸い大事には至らずその木曜日は完全休養したら下がったという嶺井は、チームを背負うエースの責任感だけでマウンドに上っていた。
宜野座・嶺井辰之輔
「金曜日の練習のときにはまだ影響はありました。この日はブルペンでも悪くて。でも悪いなりにもやらないといけないという気持ち。気持ちだけで向かっていきました。」
満身創痍のエースがマウンドに上がる理由はただひとつ。チームのために投げるその男気に、宜野座ナインが奮い立たない訳がなかった。
粘投する宜野座・嶺井辰之輔
四球とヒットで一死一・三塁とチャンスを得る。相手は好投手山里弘一。こんなチャンスは滅多に来ないだろうというベンチの気持ちがスクイズを指示するが、山里得意の落ちるカットにバットを合わせられず空振り。三塁走者が三本間で挟殺される宜野座にとっては何とも痛い失敗となって帰ってきてしまった。だが4番渡嘉敷如阿太(とかしき・じょおた)は、思い切り引っ張ると右中間を突破する同点タイムリー三塁打で失敗を取り返した。嶺井同様山里の制球も定まらず、四球でニ死一・三塁として6番仲間圭吾にカットの落ち際を叩かれると、打球は三遊間を抜かれ逆転を許してしまった。
宮古自慢の二枚看板を打破!
1点を追う沖縄宮古は4回の表、7番池間涼が左中間突破の二塁打で出塁。次打者も初球をセンター前へ運び無死一・三塁と同点のチャンスを拡げる。だが9番池田凛はセーフティー犠打を試みるも投手前へ。これでは三塁走者は走れない。嶺井から一塁へ転送されてアウトを簡単に与えてしまった。それでも死球で満塁とし、初回に三塁打を放っている池間恕士がライトへ大きな犠牲フライで同点とした。
なおニ死ながら一・三塁とピンチの嶺井だったが、次打者を、センターフライに仕留め逆転は許さない。(相手に)得点されても同点で止める。勝ち越し点は与えないというのがこのチームの強さと語る東亮監督。選手個々の力では宮古に劣る宜野座が、気迫の全員野球で試合の流れを持ち続けていった。
振り出しにしてもらった山里だが、連続四球と背信のピッチングで無死一・二塁とすると、沖縄宮古ベンチは140kmを越えるストレートが武器の快速右腕久貝拓夢へスイッチ。山里はライトへ回った。
宜野座は三塁前へ犠打を成功させ、一死ニ・三塁と久貝にプレッシャーを与えるが次打者は空振り三振!しかし9番嶺井が真ん中へ入った甘い球を見逃さなかった。逆らわず左前へ流して再び沖縄宮古を突き放すと、1番仲間大洋が「 高目のカーブが甘く入ってきました。逆らわず逆方向に持って行けたのが良かった 」と一塁の横を抜く連続タイムリーで大きな2点を加えた。
4点目のタイムリー、5点目のスクイズを決めた仲間大洋
頑張っている辰之輔に1点でも多く!
このままでは終われない沖縄宮古は6回表、先頭の山里がレフト前へヒットを放つと、一死一・三塁から、この日嶺井にタイミングが合っている池間恕士が再び犠飛!で1点差に詰め寄る。さらにニ死二塁として、3番佐和田がレフト線を襲う大ファール。
宜野座・東 亮監督
「(調子が)良くない中でも抑えるのがタツ(嶺井)。でもシンに当てられてきていたので。ウチにはもう一人崎浜というピッチャーもいるし、あの大ファールでビビッときたので継投に切り替えました。」
と、今度は宜野座ベンチが動いた。右腕崎浜秀敏がマウンドへ上り、嶺井はレフトへ。緊張の場面だったが、崎浜は次打者をセカンドゴロに打ち取り、ここでも宜野座の特徴である”逆転の点は与えない”粘りの野球を見せた。
そして宜野座はその裏、一死一・三塁から仲間大洋が高目の球に喰らいつくように当ててスクイズを成功させる。
宜野座・仲間大洋
「監督とのこれまでの信頼関係から、あの場面はボクにサインを出してくるだろうなと分かっていました。(サインが出た瞬間)絶対やってやるゾと。辰之輔に1点でも多く点数やりたいなという気持ちで、死に物狂いで当てました。」
打線の中でも特に1番の仲間大洋と4番の渡嘉敷には絶大な信頼を置いているという東亮監督。その期待に応える見事なスクイズで、宜野座が貴重な1点をもぎ取った。
7回表、沖縄宮古はニ死二・三塁から山里がライトへタイムリーを放つが、二塁走者は本塁でタッグアウト。得点した直後に点を与え続けてきた流れをどうしても引き寄せられない。
その裏宜野座はニ死二塁から代打に津波古諒を打席へ送る。小柄な体からは想像出来ない振りで、久貝のストレートに対して力負けせずライト前に運ぶ。二塁走者が生還して得点!と思いきや、沖縄宮古サードの池間涼はボールを要求しアピール。よもやのベース空過で無得点となってしまった。
しかし東亮監督は1点を争うギリギリの場面。空過を責めるより、落ち着いて見ていた宮古の池間涼を称えた。
8回から再びマウンドへ上がった嶺井は、ニ死二塁とされるも粘投で凌ぎ、最終回は一死二塁と一打同点のピンチを迎えるが、二者を連続でレフトフライに仕留めてゲームセット。
気持ちで当てたスクイズ、気持ちで投げたピッチング、仲間とひとつになる心で無敗の沖縄宮古を沈めた宜野座が、17季振り8度目の九州地区高校野球大会出場を手に入れたのだった。
宜野座・東 亮監督
「ホント凄かったですね。子供たちがこんなに打てるとは思わなかった。ベース踏み忘れは勝負の1点だったので仕方ないかなと。それより代打の津波古が打ってくれたのが良かった。ずっと頑張ってきてた子だったので、(どこかで)出したいなと思ってた。
地元の大応援団が、宜野座と金武の地域の皆さんの、一戦一戦の応援がこの子達の支えになってます。
誰もこの子達がここまで来るとは想像していなかった。中学でも地区敗退して県大会出場していない。そんなこの子達が団結したら凄い力が発揮されるんだなと。
この子達が(今までの先輩たちが)飛び抜けているのは”素直さ”とチームがひとつにまとまる”心”だけです。それが繋ぐ野球になっていると思います。」
(文=當山雅通)
宮古 | TEAM | 宜野座 | ||
守備位置 | 氏名 | 打順 | 守備位置 | 氏名 |
中堅 | 宮圀汰都 | 1番 | 三塁 | 仲間大洋 |
左翼 | 池間恕士 | 2番 | 右翼 | 上里大樹 |
遊撃 | 佐和田一磨 | 3番 | 二塁 | 渡久地 涼 |
一塁 | 来間正裕 | 4番 | 遊撃 | 渡嘉敷如阿太 |
捕手 | 下地佳貴 | 5番 | 中堅 | 島袋太貴 |
右翼 | 上原章太郎 | 6番 | 左翼 | 仲間圭吾 |
三塁 | 池間 涼 | 7番 | 一塁 | 大嶺 智 |
投手 | 山里弘一 | 8番 | 捕手 | 西川幸哉 |
二塁 | 池田 凛 | 9番 | 投手 | 嶺井辰之輔 |