狭山ヶ丘vs所沢商
櫻井(岳)(狭山ヶ丘)
2つの賭け
狭山ヶ丘のエース櫻井(岳)は最後の夏に向けて一つの賭けに出た。
「2週間前からですけど、フォームの真似をしてからいい球が行くようになったので」
と言うようにフォームを楽天・岩隈投手のような投げ方に変えたのだ。1年生から登板経験があり、今春の大会もBEST16で春日部共栄打線を相手に3失点に抑えるなど、元々資質のある投手であった。だからこそ、フォーム改造は賭けだったはずだ。
だが、どうやら彼はその賭けに勝ったようだ。ストレートは130km前後だが、力みのないフォームから繰り出されるため打者はスピード以上に速く感じるのであろう。このストレートにフォーク、チェンジアップなど変化球を絡めた投球で「右投手ということで狙い球と打ってはいけない球を徹底して2週間練習に取り組んだ」(所商・福地監督)
と対策をたててきた所商打線に対し、ヒットこそ打たれるが連打を許さずホームを踏ませない。
一方の所商だが、ある問題を抱えていた。1ヶ月半前に大幅なコンバートを行ったのだ。キャッチャー不在の中、本来ショートの関谷をキャッチャーにコンバートし、ショートにはセンスの良い1年生の土屋を据える。これでだいぶ内野守備の収まりが良くなったそうだが、危惧していた守備の不安がさっそく初回に出てしまう。
土屋(所沢商)
1回裏狭山ヶ丘、先頭の阿佐美の打球はショートゴロだが、これを土屋がエラーする。続く佐藤の犠打は失敗に終わるが、
塁に残った佐藤は盗塁に成功する。これで動揺した所商先発の仲に対し、3番の佐久間はセンター前タイムリーを打つと、すぐさま盗塁を決める。4番山田もセンター前タイムリーで続き、あっという間に2点を先制し狭山ヶ丘がゲームの主導権を握った。
2回以降、仲が立ち直っただけに所商としては悔やまれる2点となった。だが、狭山ヶ丘も
「初回の足を絡めた攻撃は9回通してこの回しかないかなって。これは賭けでした」(狭山ヶ丘・熊谷監督)
と言うように、足を絡めた攻撃はあらかじめ狙っていたようで、このあたりは、なかなかしたたかなチームである。
狭山ヶ丘は、4回裏にも4番山田がセカンドゴロエラーで出ると続く大森に左越え2ラン本塁打が飛び出し4-0とする。
さらに所商に2点を返された直後の6回裏には、1死1,2塁から6番小湊がレフトへ鋭いライナーを放つ。この打球にレフト穐本のスタートが一瞬遅れ、慌てて前進するがキャッチできず(結果はタイムリー2ベース)、狭山ヶ丘が5-2と再び突き放す。
このようにエラーをことごとく得点に結びつけられてしまっては所商に流れは来ない。結局、櫻井(岳)が所商打線に的を絞らせず最後まで投げ切った。双子の佐藤兄弟がそれぞれの高校に属するなど初戦としては見所の多かったこの対決は、最後は攻守の賭けに勝った狭山ヶ丘が6-2で物にした。
「大事な試合はあくまで櫻井(岳)だが、他にも左の今泉と右下の内田、190の櫻井(宏)といるんで誰が投げてもゲームにはなると思っている」
と熊谷監督が語るように狭山ヶ丘投手陣は決して櫻井(岳)だけではなく万全だ。難敵所商を倒した勢いで今大会の台風の目になれるか?
(文=南 英博)