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ベテラン捕手などを担当する用具担当者たちが語る、超一流選手たちのこだわり 「自分に合った道具を選ぶのが大事だ」

2024.04.01


木下拓哉、髙橋宏斗、柳裕也選手と、球団担当の穴見氏

道具はやっぱりこだわるべきだ!

「道具のこだわりは何ですか」
こう聞かれた際、明確に話せる選手がどれだけいるだろうか。かく言う私も、現役時代に道具に対してこだわりがあったかと言われると、あまりなかったのが正直なところだ。

強いてあったのは、他人があまり使っていないようなもので、ちょっとでもカッコいいもの。恥ずかしいが、道具に対してそれくらいしかなかった。今にして思えば、もっとこだわりを持てばよかったと後悔すらある。

しかし、現役球児のなかには同じような感覚の選手もいるだろう。
もちろん、カッコいい道具はモチベーションを上げてくれる。大事なポイントだが、自身のプレーを支える大事な相棒だから、出来る限り自分に合ったアイテムを購入した方が良いに決まっている。

今回取材した、ミズノの各球団担当者に話を聞くと、確信せざるを得なかった。

そもそも用具メーカーの担当者は、担当球団の契約選手たちと日々コミュニケーションをとり、用具管理やリクエストをうけて、自社の企画・開発担当や工場へ連携する。より良い商品を届けるのが役目。つまり、誰よりもプロ選手たちの用具のこだわりを聞いて知っている人間だ。

自分のプレーに合った道具選びを

そんなスペシャリストの1人で、現在中日ドラゴンズを担当する穴見氏。中日には柳裕也投手や木下拓哉捕手、さらにはWBCにも召集された髙橋宏斗投手などがいる。

特に髙橋は、2024年から新規契約を結んだ選手。まだ高卒4年目なわけだが、確かなこだわりを持っている。
「他の選手同様にこだわりがあり、グラブの大きさと革はリクエストをもらっています。
そもそも0.5センチくらいでも大きくなったと見えますし、感覚を変えたくないので、仕様も大きくは変えないんです。でも握りが見えてしまったり、動きが見えたりするのが気になるということで、髙橋投手は23年、全体を1センチも大きくしました。
革に対しても、通常よりも硬めにしています。どうしても投球モーションでグラブを引き付ける際、ある程度硬さがないと、すぐに柔らかくなるそうです。そこに違和感があるというので、硬さがあるようにはしています」

中日、右のエース・柳も同様に硬めの革を好んでいるというが、小さなこだわりが詰まっている。
「手を入れるところになるんですが、中指に輪っかを付けることで、手を固定できるようにしています。恐らく、投げる時にグラブの中で手が遊ぶ感覚がないようにつけているのだと。あとは綴じ方。基本はヨコトジなんですけど、タテにも使いたいようで、タテ型のグラブでありつつ薬指も使うイメージで使用できるよう、クラフトマンにお願いしています」

2人とも自分の投球フォームにマッチした道具になるように、リクエストを出しているのがわかる。正捕手・木下のミットについても、その点は同じだった。
「とにかくキャッチングが最優先の選手です。大きくなる分には良い、と言われるくらい大きいサイズでリクエストをもらっています。
革についても、他の選手に比べて柔らかく加工しています。ふにゃふにゃでいい、というので、他の選手に比べて柔らかく加工してもらっています。『ボールを受けた瞬間に自然にキャッチングできるようにしたい』ということで、使い込んで消耗しているときの柔らかさが良いみたいなんです。
あと、色については柳投手にも聞いていましたよ。投手から信頼を得るためだと思いますが、『この色って投げやすい?』と確認してから決めています」

デザインからでもたしかなこだわりを持とう!

ポジションの違いはあれど三者三様、それぞれがこだわってグラブを作っているのがわかる。もちろん、デザインを大事にして選ぶ選手もいる。だが「カッコいいから」だけの理由ではない。

楽天を担当している岩尾氏は、23年まで所属していた炭谷銀仁朗のエピソードを語ってくれた。

「炭谷選手は黒が好きなんですよ。同じモデルで赤色のミットも準備しますが、試合用は黒色を選びます。ご本人の感覚として、『黒色の方が革に張り感があって、パリッとしている。使い込んでからの見栄えも黒色の方が良いんだ』と話をされています」

ほかにもカラーに対してこだわりを持っている選手は当然いる。岡本氏が担当している西武に所属する平井克典投手については「やはりパリッとした硬いイメージがあるから選んでいるのだと思います」ということで黒色でリクエストがあるという。

ただ、中日の柳や髙橋同様、仕様部分でも”硬さ”を表現するためのリクエストを出している。
「小指二本入れと指当ての要望を頂き、グラブに搭載しています。というのも、投げる時にグラブを強く握ることで、受球面の革が浮きやすくなってきてしまう。それを解消するため小指二本で設計しています。あとは手の平の感覚も考慮して、張り感のあるように硬さを出しています」

一部の球団担当者からの話だけだが、超一流選手がいかに道具に妥協せずに選んでいるのか。超一流たるゆえんは十分に見えた。技術だけではなく、道具への意識も、球児たちは参考になるだろう。

そんなことを思っていた時、岡本氏からこんな話があった。
「私も元高校球児でしたが、当時は2色のグラブを使っていて、1色のグラブは買わなかった。やっぱりデザインを大事にしていました。けどこの仕事に就いて思ったんです。本質はそこだけではないと。
野球をやるのに大事なことは自分に合ったグラブを使うこと。使いやすいものを選ぶことが大事だと思うんです。けどそれは人によって様々だから正解がない。十人十色だから、結構面白いんですよね」

岡本氏の話が全てだ。これから買い替えを考えている球児は、自分にとってベストなグラブは何なのか、少し考えてから新たな相棒を手にしてほしい。

※文中の選手用具は一部プロ選手仕様です。

この記事の執筆者: 田中 裕毅

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