Column

準硬式は野球界の明るい未来だ! 深刻な「野球離れ」の中で部員増加中! <田中裕毅の『準硬ドットコム』第2回>

2024.01.10


手軽かつ本格的に野球をするために生まれた理想のボール

日本には「野球」の中に3つのカテゴリーがある。硬式、軟式、そして準硬式だ。といっても、前者2つに比べれば、準硬式の知名度はだいぶ劣ってしまう。それはなぜだろうか?

じつは準硬式は2024年で誕生76年。1872年に日本に伝わった硬式、1918年に始まった軟式に比べると新しいが、じゅうぶんに歴史のある競技なのである。
誕生75年の節目となった昨年は、史上初となる甲子園球場での全国大会を開催。まだまだ地味ながらも、じわじわと“準硬式の輪”は広がりつつあるのだ。

準硬式の誕生は、戦後、大学の軟式野球から挙がった声がきっかけだった。
当時の大学軟式野球の最強チームは早稲田大学で、国民体育大会(国体)3連覇を成し遂げる。それを契機として1948年、「全日本大学軟式野球連盟」が設立された。

準硬式球

組織ができあがれば、次は仕様の統一である。「硬式に近い感覚がありながら、硬式球よりも手軽にプレーしたい」との思いから、連盟は新しいボールの開発に着手。翌1949年に「見た目は軟式、中身は硬式」という準硬式球が完成する。そして1950年には「大会公式球」に認定されたのである。つまり、当時は大学の軟式野球=準硬式、という状況だったわけだ。その後、準硬式は大学を中心に、一時期、社会人野球でも大会が開かれるほどだった。

しかし、準硬式にはひとつ大きな問題があった。大会で使用する球場が十分に確保できなかったのだ。
見た目は軟式とはいえ、中身は硬式である準硬式。当たれば当然痛いため、安全面の確保は必須。球場は安全面を考慮して作られた硬式用グラウンドを使う必要があった。
硬式と軟式の長所を兼ね備えた準硬式だったが、理想と現実は合致しなかった。プレーできる環境に限りがあった準硬式は、なかなか広がりを見せられなかったのである。

いまや野球界の希望の星に

甲子園大会に出場した選手たち

こうして硬式、軟式に比べると認知度が低くなってしまった準硬式だが、いま“野球界の希望の星”となりつつある。

高校球児が9年連続で減少するなど、「野球離れ」が話題となっているが、なんと大学準硬式部員は増加傾向にあるのである。
新型コロナウイルスが蔓延した2020年に大学準硬式の選手は1万人を割ったが、そこから年々増加しているのだ。

それはなぜか? 「硬式に近い感覚、硬式球よりも手軽」という準硬式の長所が、球児たちに伝わり始めたからだろう。軟式のように手軽だからこそ選手数が増え、硬式に近い感覚だからこそ本気でプレーする選手も現れる。実際、大学準硬式からNPBに進む選手も誕生した。

2023年には元明治大準硬式出身の高島泰都投手がオリックスのドラフト5位で指名された。2020年のドラフトで西武5位指名の大曲 錬投手は福岡大準硬式出身、2016年に巨人から育成4位指名を受けたのは、元関西学院大準硬式の坂本 工宜投手だった。

「野球をやりたい」どんな選手でも受け入れる土壌を持ちながら、本気で野球ができる――。それが、準硬式の持つ魅力なのだ。

取材・文/田中 裕毅(準硬式野球評論家)
小学3年生から中学生までは軟式野球。高校での3年間は硬式野球をプレー。最後の夏は控え捕手でベンチ入りを果たす。
大学から準硬式野球で3年間プレー。大学2年、3年生のとき、チームは清瀬杯大会に出場し、自身はベンチ入り。さらに3年生の1年はチームの主務として、選手登録やリーグ戦運営に携わる。特に春季リーグはリーグ委員長として、試合日程の調整をはじめとした責任者を任される。

この記事の執筆者: 田中 裕毅

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