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「飛距離5メートルダウン」新基準”低反発”バット導入で、2024年の高校野球はどう変わるのか?

2023.12.22


 高校野球2024年の最大の話題は、芯の部分が従来の物よりも小さくなった、低反発の金属バット使用となるということである。

 従来の金属バットよりも、飛距離として外野飛球であれば5メートルは飛ばなくなると言われている。また、内野ゴロなどの打球速度も、従来のバットほどの打球速度は出なくなるとも言われている。高校球児の打球事故による危険を少なくするという目的で、安全性が重視されての導入ということになった。

 新基準のバットは、金属バットの最大直径をこれまでの67ミリから64ミリ未満に変更され、3ミリ以上細くなる。さらに、バットの肉厚も3ミリから4ミリに厚くなり、重量は従来通りで900グラム以上ということになっている。

 ただ、従来の金属バットの倍近い価格となるということで、多くの野球部にとって、経済的負担はさらに大きくなっていってしまう。そんなこともあって、各都道府県高校野球連盟は、当初各校に2本ずつ、新基準のバットを送るということになっていたが、状況を鑑みて、1本追加して3本とすることが発表された。

 もっとも、秋季大会が終了した時点で、多くの学校は新基準のバットで打撃練習などを開始していた。また、メーカーも得意先となっている各校に対して、試打などのキャンペーンを行って、選手たちによりいい感触を得られるバットを提供していこうということで、この秋は奔走していたようだ。

 果たして新基準の低反発バットの導入で、高校野球はどう変わっていくのかということが話題となっている。

 低反発バット使用で行われた練習試合などを観戦していても、明らかに、かつてのような当たり損ない気味の打球が、野手の頭を越えて安打になるというケースや、今までなら外野手の頭上を越えていたかなという、快音を残した打球が、簡単な飛球になってしまうというシーンもいくつか見られた。

 また、右打者の三塁線、左打者の一塁線の打球も、力のあるプルヒッターでも、よほど芯で捉えていない限り、線上を破って長打になっていくということは少なく、野手がしっかりと捌ける打球になっていたというケースも多かった。

 こうなってくると、かつての木のバットの時代の野球に近づいていくのではないかと思われる。例えば、バントなどは理論上は決まりやすくなるであろう。また、かつての横浜の筒香 嘉智や、早稲田実業(東京)の清宮 幸太郎内野手(現・日本ハム)のような、とてつもなくパワーのある打者の当たり損ないの飛球が、高く上がりすぎて、相手野手が捕球態勢に入っても打球が落ちてこずに、結果として捕球し損じてしまい長打になるというケースも、少なくなるのではないだろうか。

 そういう意味では、守備側としては、アウトを取れる確率が高くなり、試合時間そのものも、早くなっていくのではないか。無死や1死で三塁に走者がいる場合に、外野飛球のタッチアップで得点するということも、以前よりは頻度は少なくなっていくのではないだろうか。

 その一方で、バントをしっかりと決めることや、近年、多くの学校でも用いられている「ゴロGO戦術」が、より有効になっていくのではないかとも思われる。愛知県では、至学館の麻王義之前監督が「思考破壊」という戦術を掲げて、徹底した「ゴロGO」を仕掛けていったり、意表をついて走ったり、意図的に挟まれたり、という機動力を生かした野球が、より効果的な戦い方になっていくのではないだろうか。

 そんな至学館野球を手本としている安城の加藤友嗣監督などは、「新基準のバットは、ウチみたいに非力なところにはチャンスですよ。今までの戦術をより磨いていくことで、来年は期待してもらってもいいです」と、大いに歓迎しているという様子だ。

 また、享栄の大藤敏行監督も「今まで以上にきちんと、送るべきところは送るということを徹底していかないといかんということだね」と、しっかりと走者を進めていく野球をより徹底しなければならないことを提唱している。

 その一方で、今秋の東海地区大会を制して明治神宮大会でも勝利を挙げた、豊川(愛知)の主軸、モイセエフ・ニキータ外野手(2年)は「低反発のバットであっても、芯でしっかりと捉えれば、打球は飛んでいくと思います。しっかりとミートしていけば、長打はそれほど変わらないのではないかと思っています」と言う。明治神宮大会でも大きな弧を描いた本塁打を放っているだけに、説得力のある意見だ。しっかりと芯で捉える技術があれば、さほど気にすることはない。それだけ、芯で捉える技術を高めていくということも必要になってくる。

 高校野球としての基本がより重要になってくる。新基準のバット導入は、来春の公式戦から。果たしてどんな野球が繰り広げられていくのであろうか。

(取材・文=手束 仁)

この記事の執筆者: 手束 仁

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