Column

相次ぐ指導者の交代、伝統校の復活…2023年東京の高校野球を振り返る

2023.12.13


日大三の小倉前監督

今、東京の高校野球は、何十年かに1度の時代の分岐点にあるのかもしれない。2月に日大三の小倉 全由監督の勇退が発表された。2年前には帝京の前田 三夫氏が監督を勇退している。東京を代表する両監督の最後の対戦は、神宮第二球場最後の試合となった4年前の秋季大会であった。そして今年、東京の高校野球の舞台であった神宮第二球場は取り壊された。1つの時代の終わりを感じさせる。

1976年に、東京勢として慶応普通部以来60年ぶりに夏の全国制覇を果たした桜美林の主将であった片桐 幸宏氏は、夏の大会後に監督を退いた。片桐氏が高校時代、西東京大会の決勝戦で対戦した日大二の選手であった田中 吉樹氏も、この春に監督を退いている。岩渕 一隆氏が35年監督を務めた専修大附も、今年監督を交代した。堀越創価なども監督が代わり、12月になって明星の監督に国士舘の監督であった永田 昌弘氏が就任することが発表された。これだけ指導者が代わる年も珍しい。

この夏の甲子園では、慶応普通部の伝統を受け継ぐ慶應義塾が107年ぶりの全国制覇を果たした。彼らが標榜する「エンジョイ・ベースボール」は、今年を象徴する言葉だろう。しかし楽しむことは、楽をすることではない。厳しさがあってこそのエンジョイだと思うが、それをどう形にするか、指導者たちのチーム作りを注目したい。

帝京は10年ぶりに春制覇 都立勢は苦戦

春の都大会優勝した瞬間

コロナの流行が完全に終わったわけではないし、インフルエンザの流行もあり、影響はまだ続いている。それでも各種の制限はなくなり、以前の姿を取り戻しつつある。春季都大会の序盤、ブラスバンドやチアガールといった応援団を繰り出す学校が、コロナ前より多かった。選手たちだけでなく、彼らもコロナ下で我慢を強いられていたのだろう。

近年不振が続いていた早稲田実業は、4試合連続の逆転勝ちで準決勝に進出した。帝京との準決勝の伝統校対決は、両校の応援合戦もあって、盛り上がりをみせた。

そして準決勝で早稲田実業、決勝戦で関東一を破った帝京が10年ぶりに優勝した。春季大会は甲子園につながるわけではないが、前田氏を受け継いだ、金田 優哉監督の下で優勝したことは、名門復活への第1歩になるはずだ。

その一方で、都立勢はベスト16に残らず、夏の大会のシード校はなかった。夏の東東京大会で都立文京が8強に残った健闘が光るものの、秋季都大会でも都立勢は8強に進めなかった。もともとの部員不足にコロナが重なり、選手集めに苦労している学校も多いようだ。それでも都大会全体の盛り上がりのためにも、都立勢の健闘を期待したい。

大会を盛り上げた岩倉・大野の投打にわたる活躍

岩倉・大野 巧成投手

夏の猛暑は、高校野球のあり方そのものが問われる状況になりつつある。

この夏の大会で注目されたのは、二松学舎大附の5季連続の甲子園出場がなるかどうかであった。東京で5季連続は、80年の夏から82年の夏まで、荒木 大輔投手(元ヤクルトなど)を擁した早稲田実業が達成しただけだった。ノーシードで臨んだ二松学舎大附は、3回戦で堀越に延長タイブレークの末に敗れた。エースの重川 創思投手(3年)が熱中症で降板するという、壮絶な敗戦だった。この夏は東海大菅生関東一といった優勝候補も、タイブレークで敗れている。

波乱の多かった夏の大会で、活躍がひと際光ったのが、岩倉の大野 巧成投手(3年)だった。主将でエースで4番打者として活躍し、帝京修徳といった優勝候補を相次いで破った。創価から転校し、1年間公式戦に出場できない期間があったが、だからこそ満ちていたエネルギーを一気に放出しているようでもあった。

準決勝も勝利をほぼ手中に収めていたが、内野手がフライを落球して、共栄学園に逆転負けした。共栄学園としてはラッキーな勝利であったが、二塁走者だった主将の横田 優生内野手(3年)が、2死からの凡フライでも諦めず、全力で本塁まで走ったからこそ得た勝利だった。

共栄学園は、秋は1次予選で敗れた後、原田 健輔監督がフィジカルを強化する練習を重視した。その成果で得た初優勝だった。この数十年、上野学園東京成徳大高など女子校の共学化により加盟した学校があるが、共栄学園はその中で初めて甲子園出場を決めた。

一方、西東京大会で優勝した日大三は、春まで目立たなかった針金 侑良外野手(3年)、佐々木 純太郎外野手(3年)といった左打者が、夏にその素質を開花させたことが大きかった。初戦で国士舘を16対2の5回コールドで下し勢いに乗った。

関東一、神宮大会で大阪桐蔭を破る

関東一のナイン

秋季都大会では、関東一が足を使ったスキのない野球で8年ぶりの優勝を飾った。しかも、明治神宮大会で全国トップクラスの強豪である大阪桐蔭(大阪)を破ったことは大きな成果だ。

日大二が粘り強い野球で二松学舎大附を破った試合は見応えがあったし、堀内 尊法新監督が率いる創価の、試合後半の集中打は迫力があった。しかし1次予選、本大会を通じて、1イニングに大量点が入る試合が多く、雑になった試合も少なからずあった。相手に流れが行ってもそれを食い止める、メンタル面も含めた強化が課題として残った。

秋の大会に敗れたチームから、来年から採用される新基準のバット、いわゆる「低反発バット」に切り替えて練習をしている。多くのチームで指導者が代わり、バットも変わる。ドラマのタイトルではないが「下剋上」で新たな強豪が現れるか、従来の強豪校が底力をみせるか。これからの数年の戦いは、その先の10年くらいの戦いにも影響を及ぼすような気がする。

この記事の執筆者: 大島 裕史

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