膝に手をつく呼吸の姿勢
前屈みの姿勢(左)の方が胸を反らせた姿勢(右)よりも息が吐きやすく呼吸効率が良くなる
全力疾走した直後を想像してみましょう。心拍数や呼吸数が急激に増えて体力的に「きつい」と感じる状態ではないでしょうか。野球では動けなくなるほどの苦しさを伴う場面というのはさほど多くありませんが、試合であればランナーで激走した直後のピッチングや守備機会であったり、その反対に野手としてボールを全力で追いかけた後の打席であったりと、心拍数が多くなり、呼吸が乱れた状態になることは起こります。
こうした局面でも心拍数や呼吸数が早く元の状態に戻るように、練習ではスタミナ強化を目的としたインターバルトレーニングやランニングなどを行うこともあるでしょう。
苦しい状態になるとどうしても呼吸は「浅く」「早く」なりがちですが、こうした呼吸は「呼吸効率が良くない」とされています。呼吸は大きく息を吸い込んで新鮮な空気(酸素)を取り込み、体内にある二酸化炭素を排出することを繰り返しますが、すべての空気がガス交換に使われるわけではなく、一部の空気は使われずに肺の中に残ってしまいます。
古い空気が残った状態で新鮮な空気を吸い込んでも、多くの酸素を取り入れることができません。苦しいときはどうしても息を吸うことに意識が向いてしまいますが、まずは息をしっかり吐いてより多くの二酸化炭素を出すことを心がけましょう。そうすることで酸素をより多く体内に取り込むことができ、心拍数や呼吸数がより早く元の状態に回復します(呼吸効率の改善)。
また激しい運動後にいかに早く呼吸や心拍数を元の状態に戻すかは、個人の体力要素だけではなく、呼吸の回復姿勢にも違いが見られることがわかってきています。ランニング後に「手を膝につかない」「顔を上げよう」と言われた経験がある人も多いと思いますが、こうした姿勢よりも「手を膝についた」前屈み姿勢の方が、心拍数や呼吸数が早く元の状態に戻るという研究結果が報告されています。
前屈みの姿勢は、呼吸を司る横隔膜(おうかくまく)と胸郭内面で作り出す空間がひろがって、より多く息を吐くことができるため、結果的に呼吸効率が良くなるとされています。今までは激しい運動の後には、多くの空気が吸えるように顔を上げていたかもしれませんが、これからは膝に手をつく前屈み姿勢でしっかりと息を吐き、呼吸効率を高めてすみやかに体力を回復させるようにしてみましょう。
文:西村 典子
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