Interview

左腕エースからプロ注目のスラッガーへ 木下元秀(敦賀気比)の努力の軌跡

2019.10.10

 敦賀気比の4番として、今夏の甲子園では12打数7安打6打点と大活躍を見せた木下元秀。広角に打ち分ける卓越した打撃技術でチームを甲子園16強に導いた。昨夏は投手として甲子園に出場したが、左肘を痛めて昨年11月に野手転向を決断。それから1年足らずでどのようにしてプロ注目の打者へと成長を遂げている。その裏には不断の努力があった。

マウンドが怖かった高校2年夏

左腕エースからプロ注目のスラッガーへ 木下元秀(敦賀気比)の努力の軌跡 | 高校野球ドットコム
インタビューに答える木下元秀(敦賀気比)

 大阪府堺市で生まれ育った木下が初めて敦賀気比の存在を知ったのは中学1年生の時。2014年夏の甲子園準決勝で大阪桐蔭との試合を見たことがきっかけだったという。当時の敦賀気比平沼翔太(日本ハム)が2年生エースで、岡田耕太(JFE東日本)が4番捕手、侍ジャパン大学代表主将の篠原涼(筑波大)がリードオフマンを務める豪華メンバーだった。

 その試合で正随優弥(広島)や青柳昴樹(DeNA)らを擁する大阪桐蔭と9対15の打撃戦を繰り広げた。敗れはしたが、その試合の印象が強烈に残ったという。

 「敦賀気比は全く知らないところでしたが、大阪桐蔭とあれだけの打ち合いをしたインパクトが凄かったです」

 その後、東哲平監督から勧誘されたことで、敦賀気比への進学を即決した。意気揚々と入学してきたが、「最初は思った以上にキツかったです」と入部当初を振り返る。

 強豪校の練習は厳しく、思うような結果が出ずに苦しんだ。特に坂道ダッシュなどの走り込みが堪えたようで、「死にかけていましたね」と笑う。それでも「今は来て良かったと思いますし、一回りも二回りも成長できたと思います」とそれらも全て力に変えていた。

 厳しい練習を乗り越えて、エースの座を掴んだ木下は2年夏に甲子園出場を決める。小学生の頃から憧れていた夢舞台だったが、「変な感じでしたね。あの時はマウンドが怖かったです」と聖地を楽しむことはできなかった。

 1回戦の木更津総合戦に先発し、5回まで1失点と粘りのピッチングを見せていたが、6回に捕まり6失点。この回途中でマウンドを降り、チームも1対10と大敗を喫した。甲子園の怖さを木下はこう語る。

「他の大会では相手に流れが行ってもそこまで崩れなかったんですけど、甲子園は一気に流れが変わって、自分のピッチングもできなくなりました。そういうところから怖い場所だなと思いましたね」

[page_break:居場所はマウンドからバッターボックスに]

居場所はマウンドからバッターボックスに

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木下元秀(敦賀気比)

 初めての甲子園はほろ苦い思い出となった。当時の3年生からは「あと2回チャンスがあるから絶対に甲子園に戻って来い」と声をかけられ、「絶対に勝てるようにという意気込みでやっていました」と新チームでの活躍を誓った。

 しかし、夏の大会前から左肘に違和感があったという。夏の大会や国体では何とか投げることができたが、11月にとうとう悲鳴を上げた。

「投げたら痛いという感じで肘も伸びなかったですし、これは酷いかなと思って監督と相談しました。試合もなかったので、休ませてほしいと言わせてもらいました」

 これからオフシーズンに入るという時期もあり、投手としての練習は一時中断。投手を完全に諦めたわけではなかったが、木下自身も打撃が好きだったこともあり、冬場は野手として打撃中心の練習をすることになった。

 いくら打撃が好きとはいえ、敦賀気比では投手が打撃練習をすることはほとんどないため、他の選手に対する出遅れは否めなかった。それを自覚していた木下は誰よりもバットを振ることを心がけていたという。

「1年半以上バッティング練習をしていないので、人よりバットを振ることを意識していました。最後まで残って練習していました」

 人一倍努力を重ねたことで、押しも押されもせぬ不動の4番としてチームに欠かせない存在に成長。夏前には打者としてのプロ入りを現実的に意識できるようになっていた。

 また、冬場の間に左肘の状態は回復し、春の北信越大会では国体以来のマウンドにも上がっている。久しぶりのマウンドは感慨深いものかと思いきや、「何も感じなくて、懐かしいなくらいしか感じなかったです」と意外にもあっさりした感想だった。木下が投手としての戦列を離れている間に同級生の黒田悠斗や後輩の笠島尚樹らが台頭。自らの居場所はバッターボックスに変わっていた。

 前編はここまで。後編では打者として挑んだ高校野球最後の夏を振り返ってもらった。後編もお楽しみに!

(取材=馬場 遼

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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