試合レポート

金足農vs日大三

2018.08.21

両校の投手の凄さが伝わる準決勝

 「大会屈指の好投手」とか「超高校級」と形容されるピッチャーは早いうちに敗退することが多い。球の速さが囁かれるとその期待に応えようとするのか、あるいはプロ野球のスカウトにアピールしようとするのか、勝負どころでのストレート勝負にこだわり、それを痛打されることが多いのだが、金足農吉田輝星(3年)にはそれがない。

 

 たとえば、2対1とリードした8回裏、2死一、三塁で打者は4番大塚晃平(3年)という場面。2回戦の奈良大付戦以来ヒットが出ていない大塚に対して5球すべてストレートで押してタイムリーを打たれる。全球ストレートと言っても、1球目は内角の139キロ、2球目は外角の139キロ、3球目は外角低めの144キロ、4球目は外角低めの144キロという配球で、打たれた5球目が142キロのストレートだった。球速を変え、内外角を揺さぶり、不調の大塚を打ち取ろうとする意思が十分伝わってきた。

 

 次打者の中村奎太(3年)に対しては3球で2ストライクに追い込み、4球目に選択したのが126キロのスライダー。中村には相手が大会屈指の超高校級である吉田なら大塚に対したのと同じようにストレート勝負にこだわると思ったはずだ。このスライダーに対して中村はピクリとも反応できず、見逃しの三振に倒れた。

 

 5回にはフィールディングで魅了した。無死一塁の場面で8番打者のバントを猛然と奪取して捕球、躊躇せずに二塁に送球してアウトを取るのだ。私の目にはセーフに見えたが、塁審は吉田の気迫に押されて手を上げてしまったのだろう。このプレーは〝桑田二世″の名に恥じないものだった。

 

 試合は金足農が先攻した。1回表、1番菅原天空(3年)がセンター前にヒットを放ち、2番がバント、3番が内野ゴロに倒れて2死二塁となり、4番打川和輝(3年)がレフト前にポトリと落とす幸運なヒットで先制。5回には四球で出塁した2番打者をバントで送って2死二塁とし、5番大友朝陽(3年)がセンター前に弾き返して2点目の走者を迎え入れる。この日の吉田の出来を見たら、この2点で十分だと思った。

 

 日大三は3回戦の龍谷大平安戦と同様、廣澤優(2年)を先発に立て、1失点で降板後、左腕の河村唯人をマウンドに送る必勝態勢を取るが、河村は3回3分の2で4つの四球を与え、5回表の失点はその四球を足掛かりにしたものだった。これは日大三にとって予想外の失点だっただろう。

 

 それにしても日大三の投手陣には驚かされる。今大会に出場した廣澤、河村、中村、井上広輝のストレートがすべて140キロ台を超え、井上は150キロの大台を超えているのだ。前日のスポーツ紙を見たら、吉田対策として「メンバー外の最速146キロの平野将伍投手(2年)が約3メートル前から投球」とあった。140キロ超えが何人いるんだ、と叫びたくなった。

 

 日大三に好素質の選手がたくさん入学するという背景は間違いなくあると思うが、それは他の強豪校にしても同じだ。それより好素質の選手を見逃さず、適切な指導で本格派に仕上げる日大三の指導力に感服する。現在、高校野球界には投手を壊さないために球数制限をしたらどうだ、という意見が一部から挙がっている。一人エースで強豪私立に立ち向かう公立校にとって球数制限は不利になるから今のままでいい、という意見もあるが、球数制限が決まったら私立も公立も複数のピッチャーを育てることに懸命になるはずだ。そういう将来の高校野球界の〝あらまほしき″姿を日大三投手陣は垣間見せてくれた。

(記事=小関 順二

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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