比嘉 賢伸(盛岡大附)「心が変われば、誰でも進化出来る」
今年の高校生を代表する強打の遊撃手として注目されるのが比嘉 賢伸だ。しかし入学当時は守備型の遊撃手で、打力がある選手ではなかったという。その比嘉がなぜ高校通算37本塁打を誇る強打の遊撃手になったのか。その成長の軌跡に迫っていく。
1年春にいきなり本塁打を打ってベンチ入り
比嘉 賢伸(盛岡大附)
主将であるが、軽やかな口ぶりを見ると、親しみやすさを感じる。だが真剣になったときはとてつもない力を発揮する。それが比嘉 賢伸だ。
大正東中では大正ボーイズに所属。大正ボーイズには同じくプロ志望届を提出した阪口 皓亮(北海)がいた。当時について比嘉は、「僕も、阪口も大した選手ではなかったですよ。プロへいくイメージは全くしていませんでした」と振り返る。
盛岡大附に進学した同期には植田 拓がいた。「同期にあんな凄い選手がいるのかと驚きを隠せませんでした。自分は大したことがない選手で、全然長打力がなかったですから、守備が良いといわれていますけど、かなり下手でした」というが、1年春からベンチ入り。
関口 清治監督は、「守備力が非常に高く、特にスローイング能力が高い選手でした」と明かす。比嘉は「たまたま運が良かったんです。地区予選の前の練習試合で本塁打を打っちゃって」というが、いきなり目立てる活躍ができるところに比嘉の運の強さを感じる。しかし高校のレベルは高かった。なかなか打てずに苦しい日々を味わった。
「コーチの方に技術的な指導を受けながら、何とか修正しながらやってきました」と東北大会では、12打数7安打を打つ活躍を見せる。そして冬場では「懸命にバットを振って、トレーニングをしました」と打撃面で成長。2年夏には植田 拓とともに自身初の甲子園出場を果たす。初の甲子園について「先輩たちに連れていってもらった甲子園でしたね」と楽しそうに振り返る。そのデビュー戦となった九州国際大付戦。8番ショートでスタメン出場した比嘉は4打数2安打。2安打目は一時、勝ち越しの二塁打となった。
「相手の藤本 海斗投手は良い投手でしたが、打つことができてよかったです」と笑顔を見せる比嘉。
2回戦では最速154キロ右腕の高田 萌生。比嘉は「最初打席に立った時、本当に速かったですし、これがプロへ行く投手なんだな」と脱帽。第1打席は三振に倒れたが、第2打席、第3打席は連続安打。2試合続けてのマルチ安打。比嘉は「振ったら当たったという感じです」と謙遜するが、最初の甲子園デビューは3試合で12打数4安打とまずまずのデビュー。比嘉は甲子園3試合でつかんだものは大きかった。
「甲子園を経験したことで、だいぶ余裕をもって打席に入ることができました。それは甲子園でレベルが高い投手と対戦したからだと思います」
しかし結果は伴わなかった。昨秋は公式戦10試合で、37打数10安打、打率.270と満足いく結果を残すことができなかった。
変わろうと思った2年冬
比嘉 賢伸(盛岡大附)
この結果を見て、「変わらないといけないなと思いました」と語る比嘉。主にトレーニング、体づくりに励んだが、取り組み方が変わった。
「1年生の自分ははっきりいってこなすだけ。メニューに対しやらされるだけだけでした。秋の結果を見て、このままではいけないと思い、トレーニングも自分のためになると思って、真剣にやって、いろいろな種類のトレーニングをこなすようになりました」
そして食事面でも変化が。
「量をたくさん食べることもそうなんですけど、野菜などバランスよく食べることを意識しました。食事面でも体を大きくするためにいろいろ考えながら食べてきたオスシーズンだったと思います」
冬の取り組みを語る比嘉の口ぶりは、真剣で、和やかな雰囲気でスタートしたインタビュー始めとは一変していた。どれだけ真剣に取り組んだのがうかがえた。そして冬が明けて、比嘉は打撃練習をして、打球の質が変わったことに気づく。
「全然、打球の伸びが違いましたね。ホームランもガンガン出るようになりました」
強打のショートとして注目されるようになった3年夏
秋まで通算13本塁打だった比嘉は、選抜前の練習試合で本塁打を量産。選抜でも、初戦の高岡商戦で4安打の活躍をするなど、ベスト8入り。「選抜の4安打は自信になった」と、選抜でつかんだ自信はそのまま夏の大会へつなげていった。夏の岩手大会で、22打数9安打、2本塁打5打点の活躍で、三季連続甲子園出場に貢献。
そして夏の選手権では、1回戦の作新学院戦では勝利を大きく引き寄せる2点適時二塁打、そして2回戦の松商学園戦ではソロ本塁打。この場面をこう振り返る。
「ホームランを打つ前なんですけど、たまたまスイング軌道が外回りになっていることに気づいて、インサイドアウトで振ってみようと思ったんです。そのスイングができたら、ホームランになりました」
まさに閃きで、甲子園初ホームランを打った比嘉。甲子園4試合で、19打数6安打、1本塁打3打点の活躍。そして軽快な遊撃守備と比嘉が自信に持つスローイングの強さで、大会屈指の強打強肩のショートとしてNPBのスカウトにマークされる存在となったのだ。9月16日、プロ志望届家を提出。比嘉は、ドラフトを迎えた今、練習を参加し、プロ入りへ向けて実力を磨いている。
「今では打力の方に自信が持てるようになりました。まだ守備が課題なので、しっかりと磨いていきたいと思いますし、プロ入りが実現できれば、粘り強い打撃スタイルで生き残っていきたい」
そして比嘉に自分の高校3年間を一文字で色紙に書いてもらった。その言葉には「心」と書かれていた。
「僕は心が変われば、取り組みを変わると思うし、指導者の言葉を受け入れる姿勢も変わってくると思います。僕は心が変わったからこそ、変われたと思います」
比嘉の成長はだれもが認める。関口監督は「最初から凄かった選手ではなく、努力して、ここまでの選手になりました。選手としてのタイプも大きく変わり、守備が良いショートから本塁打も打てるショートになりました」と成長ぶりに目を細める。
守備型で、高卒プロも描いていなかった比嘉が、多くの球団が注目するショートストップへ成長した。
心が変われば、誰でも進化できる。その感受性を大事に、プロの舞台でも躍動する。
(インタビュー/文・河嶋 宗一)
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