試合レポート

秋田商vs健大高崎

2015.08.17

秋田商・成田翔、攻撃的なピッチングで健大高崎を破り80年ぶりの8強

成田翔(秋田商)

 見どころがたくさんあった試合だが、秋田商の最大の勝因はエース・成田翔の力投と言っていいだろう。健大高崎の攻撃はねちっこく重層的だった。私が全力疾走(俊足)の目安にしている打者走者の各塁到達タイム「一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満、三塁到達11秒未満」をクリアしたのは4人8回で、秋田商の2人2回を上回っている。

 塁に出れば盗塁をするぞ、するぞというアクションが3アウトになるまで延々と続けられる。健大高崎が先取点を取った1回裏、成田翔はこのアクションに明らかに動揺していた。内野安打で出塁した健大高崎の2番・林賢弥が疑似スタートを切ったり、帰塁を装ってスタートを切るという、これもふりなのだが、これらバリエーション豊富なアクションに動揺し、3番相馬優人に対して3ボールを与えてしまう。そして3ボール2ストライクのカウントから今度は本当にスタートを切って二盗を成功させ(相馬は空振りの三振)、4番柴引良介のセンター前ヒットで生還を果たす。この1回裏の攻撃を見て健大高崎のペースだと思った。

 しかし、秋田商は守りに入らなかった。2回表に1死から5番成田翔がセンター前ヒットで出塁、2死後に7番成田和が四球で歩いて一、二塁とし、8番近野斗維がセンター越えの二塁打を放ち2人を迎え入れて逆転。このイニングで健大高崎の先発・橋詰直弥は24球を投じているが、秋田商の各打者がストライクを見送ったのはわずか3球だけ。さらに1点を加えた4回表は14球投じられたうちストライクを見逃したのは1球だけ。その結果、5回を終わった時点での見送り率(全投球数に占めるストライクの見逃しの割合)は秋田商12.2%、健大高崎23.8%と大きな差がついた。

 私は5回が終わってグラウンド整理をする間、両校の見逃し率を計算するのを常としているが、この大差がついた数値を見て秋田商有利と判断した。もっとも健大高崎の見逃しの多さはチームカラーと言ってもよく、2回戦・創成館戦の5回終了時点での見逃し率は19%を超えていた(創成館は15.3%)。

 成田翔は待球主義の健大高崎に対して攻撃的なピッチングを展開した。相手の出方を探ろうという意図はまったく見られず、積極的にストライクを取っていき、投手優位のボールカウントで投球を組み立てていった。ストレートの球速は最速141キロ程度だが、スピードガン表示以上に速く見えるというのが成田翔のいいところで、これに角度十分の縦変化のスライダーを交え健大高崎の各打者を圧倒。出身校が同じため「石川(雅規)2世」と言われるが、上背がないことを除けば似ている部分は少ない。スカウトの話によれば社会人入りが濃厚だという。それでも、プロ志望届を提出すれば本格派左腕という希少性もあり、指名は十分可能性があると思う。

 秋田商の打線に目を向けると、9人全員がゆっくりと始動のアクションを起こし、慎重にステップするという共通点があった。投手の投げる球にしっかりタイミングを合わせて打っていこうという狙いである。好打を誇る選手には珍しくない打ち方だが、出場選手全員がこういうタイミングの取り方をしているのは非常に珍しい。指導者の教育の賜物と言っていいだろう。

(文=小関順二


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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