3つのコミュニケーション
どのチームもコミュニケーションで悩みます。人数が多いチームもあれば少ないチームもありますが、共通するのは「コミュニケーションがうまくいっていない」ということです。
チーム内で空氣の通りが悪いとプレーにも影響を及ぼしていきます。勝てるチームのコミュニケーションの取り方とはどのようなものなのでしょうか。私はコミュニケーションを3つに分けて考えています。今日はその3つのコミュニケーションを紹介しましょう。
選手同士の指摘が重要
私がチーム指導をするときに、最も重視しているのは選手同士の指摘です。コミュニケーションの大きな目的は「チームが未来によくなる」です。成果に繋がらないコミュニケーションの取り方は基本的にNGです。
選手が集まり、反省点などを確認しあう
【写真:野球部訪問 弘前学院聖愛高等学校(青森)より】
例えば、ミスをしたときに傷を舐め合うような「どんまい」という言葉。慰め合って未来の成果に繋がるのであればいいのですが、ミスの原因をうやむやにしておけば同じようなミスを繰り返すだけです。
「こんなことを言ったら、自分もミスできない」
自分以外のミスを指摘できない選手は後ろ向きの考え方で指摘ができません。未来のチームの成果を考えれば、ミスした仲間に「厳しい指摘」をしなければいけません。
指摘は「何やっているんだ?」ではなく、具体的な「どうして」がなければいけません。何かが抜け落ちてミスをするのですから、これを指摘しないとミスを繰り返すのです。
ミスの原因は技術的問題なのか、動く前の技術的問題なのか・・
6-4-3のダブルプレーを4が焦ったならば「最後までボールを見ろ!」と的確にミスの原因を本人が分かるように指摘するべきです。
勝利に近づくための【選手同士の厳しい指摘】は絶対に必要です。ミスに対して何も言えないチームでは勝てません。コミュニケーションというとプラスの言葉を言い合うイメージを持つ人もいると思いますが、時には厳しい言葉を仲間に投げかけることも大切です。
「前のコミュニケーション」とは
「事が起きる前」にする会話を最も重視します。
【写真:野球部訪問 高崎健康福祉大学高崎高等学校(群馬)より】
結果が出たあとの会話を「後のコミュニケーション」と言っています。これを私は1つ目のコミュニケーションと位置づけています。良いときには何が良かったのかを言い、悪いときには何がダメだったのかを言います。後のコミュニケーションは、悪い結果を繰り返さないために、良い結果を再現できるようにします。
そして私が一番重視するコミュニケーションは、後のコミュニケーションよりも、2つ目のコミュニケーションである「前のコミュニケーション」です。結果が出てからではなく、「事が起きる前」にする会話を最も重視します。打撃練習をするときに「意識すること」を選手同士で会話します。
「ボールの見極めができるように早めにトップを作ろう」
「始動が遅れないようにトップでは脱力しよう」
終わってから「こうすれば良かった」ではなく、できるできないは別として選手間で動く前に意識するよう言い合うことが、前のコミュニケーションとして重要です。前のコミュニケーションで大切なのは文章で話すということです。単発の言葉になると意識の深さは浅くなります。
(1) 何をするのか
(2) 特に意識するポイント
必ずこの順番で会話するように心掛けます。先ほどの会話であれば「(1)ボールの見極めができるように (2)早めトップを作ろう」という(1)(2)が入っています。「(1)始動が遅れないように(2)トップでは脱力しよう」も同じように(1)(2)が明確です。
理想(目的)+意識ポイント
前のコミュニケーションでは文章でのやり取りがチームを強化していきます。頭の中での理解が最終的には動きに伝わっていきます。
[page_break:コミュニケーションで絆を深める]コミュニケーションで絆を深める
3つ目のコミュニケーションは野球のプレー以外での会話です。これは主に、チーム内での【絆】を強くしていきます。私は「内のコミュニケーション」と命名していますが、大事なのは「相手目線」です。相手は何を思っているのか、何を考えているのかを想像してコミュニケーションをとります。
話すきっかけは自分からが鉄則ですが、きっかけの後は「聞いてあげる」ということもしてみましょう。自分のことばかりをベラベラ話すのではなく、いつもとちょっと違う雰囲氣な仲間(落ち込んでいる・悩んでいる)であれば聞くことに徹してあげることも大切です。
コミュニケーションで絆を深める
【写真:試合記事 2011年春の大会 第64回春季四国地区高等学校野球大会 準決勝 明徳義塾vs川之江より】
グラウンド内ではストレートに思いをぶつけ合うほうがいいですが、グラウンドの外では絆を強固にします。指摘するというストレートなやり取りと、話を聞くという柔らかい感じに吸収するという二種類のコミュニケーションを意識します。
本音で向き合うことで選手同士の距離感が縮まっていきます。
18人の山越えをするとします。険しい猛吹雪の山をチーム全員で登るとき、無言で登るよりも全員で声を掛け合いながら登ることを選択するでしょう。厳しい練習のときこそ声を掛け合い、脱落する者が出そうな時に叱咤激励をして相手を引き上げるのが本当の仲間です。1人脱落して17人完走ではいけません。全員完走するという大きな目標を持って、全員が手を差し出し合うことが大切なのです。
では、コミュニケーションが成立するということはどういうことなのか・・
情報伝達を単純にすればいいのかと言えば違います。意志の疎通、相手に自分の思いを伝わるように伝えられるか。そして情報をお互いに理解して共有することが、コミュニケーションが成立すると言います。
一方的に情報を言うだけではコミュニケーションとは言わないのです。今回は言葉でのやり取りを書きましたが、言葉だけじゃなく行動で示すコミュニケーションもあります。相手に耳で伝えるのか、動きを見せて伝えるのかはその時々によって選択するとよいでしょう。
前、後、内のコミュニケーション、どれも選手同士の絆を深め、チームを強くいていくには欠かせないものです。上辺だけのやり取りよりも、相手の心の奥底へと入っていく本音のコミュニケーションを心掛けたいものです。
本音でやり取りをすると大抵はギクシャクします。しかし、そこから生まれる絆は強固なものなのです。選手間の絆が太いチームは、勝利に近づいていきます。
この冬、3つのコミュニケーションを意識して、勝てる土台をしっかりと作り上げてみてはいかがですか。
(文=遠藤 友彦)