帝京vs都立大島
善戦都立大島に一瞬のスキ、帝京8強へ
帝京打線を6回まで被安打1の無失点に抑えた浜部航史郎(都立大島)
死者36人、行方不明者3人を出した土石流災害から1年しか経っていない。しかも部員は12人。離島ゆえに、練習試合もままならない。
都立大島は様々なハンデをかかえながら、ブロック予選を勝ち抜き、2回戦に勝ってベスト16まで勝ち残った。
対する帝京は、全国区の強豪校。それでも都立大島の天野一道監督は、「同じように勝ち上がってきた、同じ高校生」であることを、選手たちに強調した。実際試合は、互角の展開になった。
帝京の先発は、背番号10ながら春季大会では、中心投手として実戦経験を積んできた伊藤靖晃。都立大島は前日に続き連投の浜部航史郎だ。
前半は浜部が好投する。6回まで許した安打はわずかに1。その1安打も次の打者を併殺打に打ち取った。
4回表には、死球で出た3番小峰聡志が盗塁や、暴投で三塁まで進むも、6番酒井雷太の大飛球を左翼手の星凌太朗が好捕。
6回表にも四球出塁した2番栗田真が三塁まで進んだものの、5番笠井拓弥の大飛球を中堅手・吉岡風優人が好捕。低めにボールを集め好投する浜部を、バックが盛り立てた。
一方、帝京・伊藤の好投の前に、都立大島打線は沈黙。それでも6回裏には吉岡が右翼への二塁打で出塁したものの、牽制で刺されるなど、スキが見つからない。
試合が動いたのは7回表の帝京の攻撃。この回先頭の6番酒井が四球で出塁すると、すかさず盗塁。7番川本賢将の左前安打で、無死一、三塁。8番山崎康太は浅い左飛に倒れ一死一、三塁。ここで打席には9番の伊藤が入る。その2球目、スクイズを敢行するも、都立大島バッテリーに外され、酒井は憤死。
ここで少し安心したような空気が流れた。そこにスキが生じた。
被安打3、奪三振9の完封勝利を挙げた伊藤靖晃(帝京)
都立大島バッテリーは、伊藤への3球目、素直にストライクを取りに行った。伊藤はそれを逃さず、中前安打。帝京はやっと先取点を挙げた。
都立大島の天野監督は、「スクイズを外して、すぐに入って、コンと打たれる。普段の意識の違いがあります」と、浜部の甘さを指摘した。
帝京は8回にも2番栗田の左前安打、3番小峰のレフトオーバーの二塁打で無死二、三塁とし、5番笠井の中前安打で2点を追加。
9回にも1番佐藤優樹の右前適時打で1点を追加した。
帝京の伊藤は得点が入るとさらにギアを上げて都立大島打線を翻弄した。終わってみれば、帝京の4対0の勝利。帝京の伊藤は、被安打3、奪三振9の完封であった。
一方都立大島の浜部は7回を被安打5の3失点。8回途中から登板した1年生の山田洋介は被安打3、失点1、自責点0と好投した。守備も華麗ではないものの、安定している。
帝京相手に6回まで無失点に抑えたことは自信になるはずだ。ただ0点のままでは勝てないのも事実。実戦経験を積みにくいのは不利な条件ではあるが、工夫してやっていくしかない。
選手たちは試合の後、夜10時の船で都立大島に戻った。船は朝6時に都立大島に到着するが、選手たちは、すぐに中間試験を受けなければならない。被災地ゆえ、野球ができる日常のありがたさが分かっているだけに、選手たちの野球を通してのさらなる成長を期待したい。
一方帝京は、ストレスがたまる試合であったことは確かだ。それでも土曜日には準々決勝を迎える。相手は投打に活躍する勝俣翔貴擁する東海大菅生。準々決勝最高の好カードだけに、まずはこの試合に向けて、気持ちを切り替える必要がある。
(文=大島裕史)