中京大中京vs渥美農
9回二死土壇場のあと1球の場面から、中京大中京が逆転
全国二番目の179校が参加した愛知大会も、早くも32校になってしまった。豊川、愛知啓成、名南工と混戦愛知の中で、今年はチャンス到来かと思われたシード校がことごとく、敗退。夏の厳しさを浮き彫りにしているが、そんな中、甲子園通算131勝という記録を保持し、日本一の伝統校と言ってもいい中京大中京は、最後の最後で底力を見せた。
3回に渥美農が投ゴロ悪送球による先制点と、2番伊藤博君の三遊間を破るタイムリー安打で2点を先取。しかし、中京大中京もすぐに、2四球でチャンスを貰うと山本君、白井君の下位打線の好打で追いついた。ところがその後、なかなか勝ち越し点が奪えないという状態だった。次に得点したのも渥美農だった。6回、渥美農は一死二塁から5番青木君が右前タイムリーを放って再びリードを奪った。
そして、この1点がじわじわと中京大中京を追い詰めていくことになる。また、渥美農も勝ちが見えてきてプレッシャーも強くなってきたのはあったかも知れない。それでも、ミスもなく迎えた9回の攻防。渥美農としては、ここを守りきれば大殊勲となる。それだけに、しびれる守りである。
ここまで、淡々と投げてきていた林大貴君も、少し意識したのかもしれない。それまでは、いくらか荒れ気味の制球が却って生きていたのだが、この回は中京大中京もじっくりと待ってきた。ボールになっていくスライダーにも手を出さず、本田君が四球を選ぶと、9番真田君はすかさずバントを決めて一死二塁。清水 雄二君も、じっくりと見て四球で歩き一二塁。ここで、7回途中から出場していた山口君が初打席となったが、悪球に手を出さず、好球を中前に弾き返してつないで満塁。
ここでクリーンアップ、絶好の打順となったが、小林君の一打は快音を残したものの二塁ライナー。あわや併殺かという当たりでもあったが、走者は何とか帰塁。そして4番山下君だが、ここまでは4打数0安打、打たされたような外野飛球が多かった。ベンチからは背番号15の畠山君が走ってベンチの指示を伝える。「これまで、緩いボールを引っかけて振り回しているから、コンパクトに振って自分のバッティングをしていこう」と、伝えたのだが、山下君はそれに応えた。2球目をファウルして2ナッシングと、あと1球まで追い込まれていたが3球目のスライダーがやや抜け気味になってきたのを捉えて、中前へはじき返した。好スタートを切っていた二走も帰って逆転した。
中京大中京の高橋源一郎監督は、「正直なところ、8回からは開き直っていましたね。ただ、選手たちには自分たちがやってきたことは間違いないので、それを信じて行けと、自分のプレーをしていこうということは伝えました。苦労しましたけれども、負けなくてよかったです。山下もよく打ってくれました。途中から出ていて、9回に安打でつないだ山口が影のヒーローです」と、安堵しながらも、それぞれの選手の頑張りを称えた。
投手陣も、先発の真田君が3回で外野へ退き、結果的には1年生の上野君と2年生粕谷君とそれぞれが3イニングずつを投げるということになった。1点こそ失ったものの、夏の公式戦の舞台を踏んだ上野君、怪我から復活してきて1カ月ほどの粕谷君がいいストレートを投げていたし、何とか間に合ったということも苦しい戦いの中で、指揮官は収穫として挙げていた。
名門校をあと一歩まで追い詰めた渥美農としては、手元まで手繰り寄せていた勝利をまさに、あと1球のところで取り逃した。これが、夏の大会、そして名門校の底力ということを改めて認識させられたのかもしれない。それでも、厳しいプレッシャーのかかる守りの場面でも、浮足立つこともなく、きっちりとしたプレーをしていたのは、鈴木至紀監督が丁寧な指導をしてきた成果であろう。9回の守りに着くときにも、「まだ、この回が終わるまでは勝ちじゃないんだ」ということを言い聞かせながらの守りだったが、最後はそれが当たってしまったということになってしまった。それでも、バッテリーを含め2年生の多いチームでもある。大きな自信になったことも確かであろう。秋の新チームも楽しみな存在となりそうだ。
(文=手束仁)