試合レポート

宜野座vs沖縄尚学

2012.10.09

宜野座vs沖縄尚学 | 高校野球ドットコム

優勝した宜野座ナイン

全員野球で名門へ立ち向かった宜野座が10年振りの頂点へ!

甲子園センバツ21世紀枠が創設された元年となる2001年の大会で、初出場ながらノビノビ野球でベスト4入りし旋風を巻き起こした宜野座高校。しかしその後は03年の夏の甲子園出場を最後に失速。近年では06年と10年の選手権県予選ベスト8が最高位と寂しい状態が続いていた。そんな宜野座に新しい風を送り込もうと、あるプロジェクトが今年の1月に立ち上がる。同校のOBでもある仲間大樹氏(37)をコーチとして迎えて、村の子供たちでもう一度甲子園を目指すというものだ。同氏は高校卒業後就職し、今から5年前に金武町で金武イーグルスという社会人野球チームを結成し監督として辣腕を揮ってきた人物だ。同じ母校で同級生、且つ野球部でも同じ道を歩んだ気心の知れた仲である東亮監督にとっても、名参謀の誕生ら非常に心強い存在となっていた。
そのコーチ就任から僅か9ヶ月後、宜野座ナインは名門沖縄尚学を下し、監督・コーチの両者も成し得なかった秋季県大会の頂点に輝いた。

名前負けしない爽やか戦士たち!

中学時代一人として県大会出場などしていない宜野座ナイン。方や各中学のエースクラス、ボーイズをはじめとした硬式クラブチームで活躍した4番など、そうそうたるメンツが揃う名門沖縄尚学。だが宜野座ナインの誰一人として気後れせず、名前負けする者も皆無だった。
初回、前日の興南戦で7回途中まで好投しゲームを作った沖縄尚学宇良淳の立ち上がりを攻める宜野座は、ニ死二塁として沖縄宮古戦でもタイムリーを放った4番渡嘉敷如阿太(とかしき・じょおた)が打席へ。

宜野座渡嘉敷如阿太
「1、2回戦にチャンスで回って来たのですが打てなくて。決勝戦とい舞台、そしてこのチャンス。思い切りいこうと振ったらライトへ転がってくれました。」

真ん中低目の甘い球をライト前へしぶとく運び先制点を奪った宜野座。4番として走者をかえしたいという気持ちが打点になってくれたという渡嘉敷。
宇良はその後2回3回と三者凡退に抑えるが、球がやや上ずりを見せていたのと、比嘉公也監督曰く流れを変えたかったこともありここで降板。3回の裏の沖縄尚学はツーアウトから主将諸見里匠がスリーベースヒットを放つも、知念佑哉がサードへのファールフライに打ち取られるなど、歯車が噛み合わない。

宜野座・嶺井辰之輔
「強豪校はストレートに強いので、今日は緩いボールを上手く使って緩急で向かっていこうと。捕手の西川と話してピッチングを組み立てていきました。」

と語る嶺井は、熱発の影響がまだあった昨日からはだいぶ復活したようで、丁寧にコーナーを付きながらも、走者を得点圏に背負ったここぞという場面では気迫のピッチングで沖縄尚学に得点を許さない。そして試合は中盤の大きな山場を迎えることとなる。


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宜野座・嶺井辰之輔

第一打席でのミスを修正した2点タイムリー!

沖縄尚学・比嘉公也監督
「(最後の切り札)どこで健一朗を出すかがひとつのポイントでした。出来るならば整備終了後の6回から投入する形にしたかった。」

3回の攻撃の宇良の打席で代打を使った沖縄尚学ベンチは、2番手にサイドスローの與座海人をマウンドへ送る。この秋は初登板の與座だったが、ここ最近のブルペンでは良い球を放っていたということで、比嘉公也監督は期待を込めて指名。だがその親心が、この場面では裏目となってしまう。
緊張からか、投球練習の段階でボールにバラつきがあった與座は案の定、先頭打者に四球を与えてしまう。次打者は犠打の構えも厳しいところを突き逆に追い込んでいくまでは良かったが、強打に切り替えた2番上里大樹に三遊間を割られ無死一・二塁と傷口を大きくしてしまった。
これ以上の余裕は無い沖縄尚学は、左腕比嘉健一朗の投入を余儀なくされる。犠打で一死ニ・三塁も5番を三振に斬りツーアウトとするが、不用意に入ってしまった球を仲間圭吾に痛打されてしまう。

宜野座・仲間
「最初の打席で宇良の球に対し、やや突っ込み気味でした(サードゴロ)。左の比嘉へ変わりましたが特別どうのではなく、低目に手を出さずストライクだけを振って行こうと考えてました。」

打った瞬間抜けたと分かる打球は、レフトとセンターの間へ。二者が生還し大きな大きな追加点が宜野座へ転がり込んだ。
先制、中押しと取ってくれたナインに対し、マウンドの嶺井にも気合いが入る。直後の4回裏で、沖縄尚学が誇る3番名嘉昇司には外いっぱいのストレートで見逃し。4番柴引佑真には緩急を使ったチェンジアップで空振りを奪い連続三振斬りに仕留めるなど、クリーンアップを三者凡退に抑えた。


宜野座vs沖縄尚学 | 高校野球ドットコム

宜野座・仲間圭吾

第二シードの底力を見せた怒涛の連打

6回裏、沖縄尚学は一死から知念が逆らわずに左中間へ持っていき三塁打とすると、先ほど三振を喫した名嘉が犠牲フライを打ち1点を返す。第二シードが持つ圧力が徐々に宜野座へ迫る中、比嘉も5回から7回まで三人ずつで抑え味方打線のさらなる奮起を待つ。8回こそ先頭打者にヒットを許すが、自ら犠打を拾い二塁フォースアウトにするなど隙を見せない。だが宜野座は、先日もタイムリーを放っている好調の仲間大洋が、思い切り引っ張り左中間を突破するタイムリー三塁打。地が轟くような大歓声で湧きに湧く三塁側。その異様な中で次打者はツーストライクと簡単に追い込まれたのだが、ここで宜野座ベンチは完全に意表を突くスリーバントスクイズを敢行!
“ま、まさか!”転がるボールを追いつつ呆然と顔を見合わせる沖縄尚学内野陣は、一塁へ投げることも出来ない。それほど虚をついた見事なスクイズに、宜野座東亮監督も「 あれが大きかった 」とベタ褒めだ。

これで勝負あったかと思うほどのダメージと誰もが思ったがしかし、逆に開き直った名門の底力を目の当たりにすることとなる。
8回裏、先頭打者がレフト前へ運び出塁する。終盤4点差では犠打など必要なく打つのみ。その状況で諸見里がキャプテンの意地を見せる右中間突破のタイムリー三塁打で1点を返す。一度火がついた沖縄尚学打線は、まるで烈火のごとく止まらない。続く知念もレフト前へ運ぶタイムリーで三塁から諸見里が生還し2点目。その後知念は二塁を陥れなお無死二塁とすると、名嘉の打球はしぶとく三遊間を割ってレフト前に達する。そんな怒涛の4連打に一塁側スタンドは興奮のるつぼと化す。だが余りの高揚感に三塁コーチャーがマヒされてしまった。

沖縄尚学・比嘉公也監督
「あそこはまだノーアウトだし無理をする場面じゃない。正直、一・三塁で止めて欲しかったですね。」

三塁を蹴りスライディングしてくる知念を、キャッチャーの西川がしっかりブロックしタッグアウト。この記録に残らない失敗で僅かだが宜野座に落ち着きを戻してしまった沖縄尚学。一死一・二塁としたところで宜野座が嶺井から右腕崎浜秀敏へ継投。犠打でニ死二・三塁としてこの日2安打と好調の久保柊人(くぼ・しゅうと)に全てを任せたが、崎浜が遊ゴロに仕留め粘り勝ち。最終回はサードの悪送球で一人を出塁させるも、最後は諸見里を内野ゴロに打ち取りゲームセット!
試合中のプレーも試合後の笑顔も、全てが爽やかな戦士たちの団結した力で、宜野座が10年振り4度目の頂点に輝いた秋の沖縄県であった。

宜野座・東亮監督
「ピッチャーの継投と上里のツーストライクのスクイズが良かったです。毎試合ピンチの連続。今日も(5-1となっても)沖尚さん、いつくるかなという感じで試合を見てました。
8回の裏はとにかく6点目を取られなければいいからと。とにかくアウトをひとつひとつという思いだけでした。
今週は(月・火・土・日と)厳しい4連戦でしたが、その中で子供たちが成長してくれた。
僕の母校だけに周りの先輩方や地域全て知っている方々で、有難い意見もあったりと、とにかくその責任は大きかったです。九州の強いチームに、今ウチのある力を試したい。チャレンジしたいと思います。」

宜野座上里大樹
「 今大会全く打てなかったので、どんな形でも良いからチームに貢献したかった。スクイズを決めたときは、良かったというよりも(やっと)力になれたんだなとホッとしました。」

宜野座嶺井辰之輔
「 昨日変なピッチングをしてしまったので、決勝戦では全イニング自分が投げるつもりでマウンドにたちました。今大会最高のピッチングが出来ました。」

沖縄尚学・比嘉公也監督
「 タラレバになりますけど、前半どこかで(走者が得点圏にいる場面で)1本出ていたら、ピッチャーの流れも変わったかなと。4、5回を(與座に)預けたと思ったけど、力が入ったのでしょうか。健一朗は要所は締めつつも、不用意に入ってしまった。向こうはここぞという場面で(タイムリーが)出るし、スクイズも決める。その部分の差が出ました。
攻守ともにベンチワーク、全てを反省して九州へ行けたらなと思います。」

(文=當山雅通

沖縄尚学   TEAM   宜野座
守備位置 氏名 打順 守備位置 氏名
遊撃 諸見里 匠 1番 三塁 仲間大洋
中堅 知念佑哉 2番 右翼 上里大樹
右翼 名嘉昇司 3番 二塁 渡久地 涼
一塁 柴引佑真 4番 遊撃 渡嘉敷如阿太
左翼 西平大樹 5番 中堅 島袋太貴
三塁 久保柊人 6番 左翼 仲間圭吾
二塁 平良勇貴 7番 一塁 大嶺 智
投手 宇良淳 8番 捕手 西川幸哉
捕手 具志堅秀樹 9番 投手 嶺井辰之輔

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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