県立下妻第二高等学校 新山 直樹 選手
第110回 県立下妻第二高等学校 新山 直樹 選手2012年10月29日
1994年4月3日、茨城県下館市(現筑西市)出身。大田小学校3年時に軟式野球を始める。投手からスタートするが右ヒジを故障し、下館南中学校時代に内野手になる。
右投右打、173センチ72キロ、50m走6.4秒。
下妻二高では2年春にベンチ入りし、秋にはレギュラーになる。ポジションは2年夏が三塁手、その後一時的に外野に回るが、秋には三塁に戻り、以降3番・三塁手としてチームを牽引する。高校3年間の成績は以下の通り。
公式戦⇒48打数20安打、打率.417
通算⇒520打数158安打、打率.304 ※練習試合、紅白戦含む
責任がのしかかってくるときのほうが断然成績がいいのがわかる。
3年間12冊のノートに記し続けたバッティングを究めたいという思い
”春季関東大会での新山選手”
5月19日に行われた春季関東大会1回戦、下妻二高対前橋商戦を見て、2人の内野手に目が釘づけになった。前橋商戦の2年生ショート・増村和紀と下妻二高のサード・新山直樹だ。増村はランニングホームランを放ったときのベース1周に要したタイムが14.78秒という超高校級の脚力に注目し、新山は極めて動きが小さくおとなしいバッティングフォームに魅了された。
バッティングに限定すると2人とも緩急の攻めに対応できるタイミングの取り方ができていた。ただ、下半身の動きでタイミングを取る新山にくらべ、増村は上半身でタイミングを取る。似たタイプを探せば光星学院の超高校級ショート・北條史也が近いが、この上半身でタイミングを取る選手は安定してヒットを量産する確率が低い。プロなら森本稀哲(DeNA)が典型的な例である。
新山はこれらとは真逆の打ち方をする。バットを大きく引けば大きく引いた分だけ差し込まれるので引きは極端に小さくする。バットの上下動(ヒッチ)は差し込まれる要因になると同時に、打てるコースが限定される危険性がある(高めの球が弱い)ので上下動させない――どうもそういうバッティング哲学を持って打席に立っているようなのである。
実際に取材をして話を聞いて驚いた。1年生として初めて下妻二高グラウンドに入ったときから最後の試合の日までノートを取り続けていたというのだ。
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▲新山選手が3年間で書きためた12冊のノート。[/pc]
――(ノートは)何冊になります?
新山直樹選手(以下、「新山」) 3年間で12冊です。
――自分のバッティングのクセとかはすべてわかっている、ということですね。
「新山」 はい、大体は。毎日、1日終わったら自分でノートに書いてその日の反省、次の練習に向けての取り組み方をまとめて、毎日つけていました。
――それはチームの方針で?
「新山」 いいえ、自分でやっていました。
――そういう話、見たことも聞いたこともありません。強制されたわけじゃないんでしょ?
「新山」 はい、自分で。
新山は全国的に無名選手なので私が「凄い凄い」と言ってもピンとこない人が多いと思うが、このノートの件(くだり)を聞けば只者でないとわかるだろう。実際に新山がどんな思いで打席に立ち、相手投手を攻略しようとしているのか、これから突っ込んだ話をしてもらおうと思う。
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▲バッティング時の下半身の動き ※大きい画像は下部のフォトギャラリーをご覧ください。[/pc]
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バッティングはプロの選手に聞いても下半身の話ばかりする。上半身は、という問いかけに対しては「下の動きがちゃんとできていれば上はついていくだけ」という返答が多い。それほど下半身の動きは重要で、とくに最近の一流選手が多く口にするのが「タイミング」の5文字。
バットを強く振る力があってもタイミングがうまく取れなければ強くバットを振ることはできない。当然のことである。新山を初めて見たとき、このタイミングの取り方をバッティングの中心に据えて考えているように見えた。
”自分にあった型で軸を安定させています”
――関東大会の前橋商を見て新山くんには感心することが多くて。僕が考えている、安定して打てる形と新山くんのやっていることが、ほぼ一致するんですよ。まずステップが静か。
「新山」 前足ですね。以前は強く着き(着地)すぎちゃって。
――それはいつ頃?
「新山」 2年の秋くらいです。レギュラーになった頃、強く着きすぎちゃって右ヒザが割れて外角球に対応できませんでした。それを秋の大会で経験して、冬のオフの期間に意識して変えました。そうしたら段々自分の形にまとまってきて、春にいい形で打てたのかなと思っています。
――ゆっくりステップ出すのは怖くありませんか、差し込まれるんじゃないかって。なるべく早くトップ作って、待ちたいじゃないですか。
「新山」 怖さっていうのはなかったですけど、静かに置くことで間(ま)が生まれ、軸が安定しました。
――それは監督に言われて?
「新山」 先生もいいときの形と悪いときの形を見てくれているので、そっちのほうがいいぞ、ということで。
――他の選手を見ても、ステップをゆっくり出す選手っていないでしょ。それはわかる?
「新山」 はい。
――自分はあえて少数派のことをやろうとしているわけでしょ。
「新山」 はい、自分に合っているので。
――ああ、そうか。自分で取り組んでいろいろ試して、ゆっくり出したほうがしっかり体が割れて、強くバットを振れる形が作れる、という信念ができたんですね。だから少数派だとかそういうのは関係ないんだ。
こういうやりとりを期待したし、多分こういう答が返ってくるとは思っていたが、これほどゆっくりしたステップワークを確信してバッティングに取り組んでいるとは思わなかった。次は上半身、バットを持つ腕の動きについて話してもらった。
バッティングにおける腕の動き
”インパクトの時だけ力を入れる意識”
――それでバッティング全体がおとなしいというか小さいというか、いずれも好ましいことなんだけど、始動もステップも小さくゆったりしているし、上半身も動かない
「新山」 力を抜く、ということを一番頭に置いています。腕とかは力を抜いて、インパクトのときだけ力を入れるようにしています。
――どの辺から力が入るんですか。
「新山」 ボールに向かっていくときから力が入ります。
――バットの引きも小さい。グリップも動かないし。普通はヒッチしたり色々するんだけど、しない。窮屈じゃない。?
「新山」 窮屈に見えるかもしれないですけど、打席に入っているとそんなことはありません。
――ノートにはそういうことも書いているの?
「新山」 (即答で)はい、書いています。
――たとえば、前橋商戦は2安打ともレフト方向でしたよね。
「新山」 はい。
――あれは引っ張れなかった?
「新山」 じゃなくて、向う(レフト)に意識を置いて、ベンチの指示もあったんですけど。
――打ったのは全部ストレートですけど、あの日はストレートに狙いを定めていたの?
「新山」 はい。
――変化球は苦手とか、そういうのはなかったですか。
「新山」 それではなかったです。
――まあ変化球は打てるな、とは思っていました。キャッチャー寄りにポイントを置いているし、その分ボールを長く見られますからね。監督にいつも言われていることは何ですか。
「新山」 3年生になってからは言われなくなりました。もう自分のことは自分でわかっているだろうから自分で考えろと。たまに言われるのは足のステップと、内角の変化球に詰まることが多くて、そこは見逃したらいいんじゃないか、とか、そういうのは教えていただきました。
”下と上の間はとても重要”
――あんまり見逃したくないタイプなの?
「新山」 自分は引っ張りタイプなので、右ピッチャーの変化球のように入ってくるボールは思い切り打ちたいなと。
――じゃあ、左ピッチャーのスライダーなんかは引っ掛けちゃうことがあった?
「新山」 そういうミスは何回かありましたね。
――バッティングで大事なものって何ですか。
「新山」 力が抜けているかっていうのと、あとはタイミングの取り方ですね。しっかりトップを作れるかっていうのが。
――トップを力強く作るというのは難しいですね。この位置にバットがあるからトップというわけじゃないですもんね。
「新山」 ピシッと割れるという。
――それが満足に作れないこともあるでしょう。
「新山」 あります。間がなくなっちゃってボールの見極めができないときに。だから、下と上の間(ま)というのは大切にしました。
――それは相手次第で変わると思うんだけど、たとえばゆったりしたフォームで投げてくるピッチャーにタイミングを合わせるのって大変でしょう。
「新山」 ええ、不規則であったり、いきなり速かったりとか(無走者のときのクイックモーションとか)そういうピッチャーのときには最初からトップを作って待つ形を作っていました。
話はサードの守りまで広がっていったが、それはまた書く機会があったら紹介したいと思う。ここまでのやりとりで新山のバッティングに対する真摯な取り組み方がわかっていただけたと思う。最後に「桐光学園の松井と対戦したらどういうバッティングをしますか」という問いに対する答を紹介して終わりにしたい。
「新山」 あのスライダーを打ちます、レフトの向うに。?
――打つ自信はあります?
「新山」 1回くらいは三振しちゃうかもしれませんけど、打てなくはないと思います。
――ありがとうございました。
(インタビュー・小関順二)