大阪桐蔭vs九州学院
主砲不在を救ったチーム力とは?
指揮官の誇らしげな表情がすべてを物語っていた。
「47人全員の力で戦おうと。田端の不在は痛かったですが、チーム力を見せられたと思います」
大阪桐蔭が1回戦に続く、優勝候補同士の対決を制した。1回戦で主砲・田端が死球を受けて、右腕を骨折。欠場を余儀なくされたが、それでも、この苦境を乗りきったのである。
試合前から、大阪桐蔭・西谷監督はいつになく意気込んでいた。
ただそれは、目前の試合に勝ちたいというだけのものではなかった。どこかチームの命運に期待するかのように自信に満ち溢れた指揮官の言葉だった。
「こういう時にこそ、チームの力試される。チャンスだと思っています」
大阪桐蔭のチーム力――。
聞く人によっては、「タレント集団」と呼ばれる大阪桐蔭の選手層のことをいうのだ、と思うだろう。2点のビハインドから5番・笠松が逆転の3点本塁打を放っているから、さらにそう思わせる。
だが、この試合で、大阪桐蔭が見せたチーム力は、主砲に替わる一発などではない。
何より、この逆転劇で見逃せなかったのは、2番・大西の活躍である。大西は走塁面で、この逆転劇に大きな貢献を見せている。
6回表、1死から打席に立った大西は四球で出塁。3番・水本の右翼前安打で、三塁を陥れた。簡単に1、3塁の局面を作ったようにも思えるが、この時の大西の走塁が見事だった。水本の右翼前安打はライナー性の当たりで、判断が必要とされるものだった。大西は思い切って、二塁ベースを蹴った。大西は言う。
「打球はライナー性だったんですけど、右翼手がボールを取る時の態勢が、すぐにボールを投げられるような感じじゃなかった。強いボールを投げることはできないと思ったので、三塁まで行きました」
そして、1死・1、3塁。4番…田端に代って出場の小池を迎えた場面。公式戦で初の一塁手を守り、1回戦では出番のなかった小池は、プレーに余裕がなかった。先制を奪われたのも、彼のまずい守備からだった。
小池は2球目を強振すると、三塁へのボテボテのゴロだった…。万事休す。ダブルプレーも想定される打球だった。
すると、三塁走者の大西は本塁へと走り出した。それも、あからさまに挟まれるかのようなスピードでスタートを切った。大西は狭殺の末に、タッチアウト。九州学院の守備の連係が上手かったために、2死・1、2塁という形に抑えられてしまったが、このプレー、大西のファインプレーである。
小池の打球をさばいた三塁手がセカンドへ投げていれば、併殺もあり得たからだ。大西がおトリになり、、大阪桐蔭の攻撃をここで終わらせなかった。
実は、小池はこの打席の初球、同じような三塁ゴロを放っている。結果はファールだったのだが、三塁走者の大西はこの時、中途半端な走塁を見せていた。三塁ゴロの瞬間、一度、三塁へ戻った。そのあと、あわててホームへ突入するしぐさを見せた。
大西回想する。
「ファールの時は、一瞬、スタートが遅れました。僕は戻ってしまったんですよね。もし、あればフェア―だったら、三塁手は二塁へ投げていて、併殺になっていたのかもしれません。でも、ファールだったんで、次の打球のときは、ホームに突っ込むことができました」
大阪桐蔭の決めごとでは、こうしたケースで走者は「ゴロ・ゴー」なのだという。有友部長は言う。
「ああいう打球は突っ込むべきですね。僕自身は挟まれる必要もないと思っています。挟まれても、なかなか、2,3塁を作るのは難しいから。それだったら、思い切ってスタートを切って、本塁を狙ったほうがいい」
大西からすれば、1本目はミスだったが、2本目はともかく、本塁へあからさまに向かって、結果、犠牲になった。笠松の本塁打を引き出した、大西の好走塁だった。
ただ、九州学院からすれば、結果論だという見方が強い。
「チームとしては、あの場面でボテボテの場合は、ホームに投げるということに決めていました」と三塁手の太田がいえば、遊撃手の溝脇も「打球が緩かったので、(ホームへ投げた)選択は間違っていないと思います。ダブルプレーは難しいと思います」と話している。
確かに、打球は弱かった。しかし、2点差がある状況では挑んでも良かった。たとえ、ダブルプレーにならなくて1失点したとしても、2死・一塁の局面は非常に厳しいものがある。そして、打者走者の小池の証言を聞けば、なおさらだ。
「いや、実は、その前にファールを打ったのと同じで、僕、あの打球もファールだと思ったんです。だから、打ってからスタートを切るのが遅れました。併殺狙われたら、成立したんじゃないですかね。危なかった。今日の僕は、プレーに余裕がなくて…いっぱい、いっぱいでした」。
九州学院の守備を攻めるつもりはない。ただ大阪桐蔭からしてみれば、併殺を逃れて好機が潰さなかったのが、大きい意味をもった。
これが、西谷監督の言う、「チーム力」なのだ。
大西の隠れたファインプレーに、主砲・不在の大阪桐蔭にあるチーム力を見た。
(文=氏原英明)