履正社vs地球環境
履正社の継投策で考えたこと
指揮官に迷いはなかった。
「最初から3イニングを3人ずつで繋いで行こうと決めていました。当然、リスクを伴いますが、ピッチングコーチと相談した結果、今大会は3人の継投で戦っていこう、と」
なんと、履正社は3人の投手を3イニング限定で登板させ、9回を守り切る戦術をとったのである。昨今の高校野球では、継投策が増えてきているとはいえ、先発・完投も少なくはない。その中での、3人の投手による継投策は、奇抜とさえいえた。さらに、戦いながら継投していくのではなく、試合前から3イニングずつと決め、それを実行して勝ったのである。
「登板する選手たちは全力で役割を果たしてくれればいい、後は監督の責任ですから」(岡田監督)
公式戦初登板の先発・東野がゲームを作って阪本につなぎ、最後はエースナンバーをつける東で締めた。
「1週間前くらいに、3人の継投で行くと監督から告げられました。一人で投げたい気持ちもありますが、背番号1を背負っている以上はしっかり与えられた役をやり遂げなきゃだめだと思ってやっています」とエース・東はきっぱりと言った。今大会からの戦略にも「二人がいるので、楽な部分もあります」と先秋はほとんどの試合で先発し、完投したエースは前向きにとらえている。
とはいえ、言葉にするほど、投手3人制は簡単なものではない。岡田監督も言っているように、当然、リスクは伴うものだ。特に、危惧されるのは立ち上がりで、「投手は立ち上がりが不安。それが1試合のうちに3回もあるわけですから難しさがある」と岡田監督は話している。
ただ、この継投策、筆者は野球界に一つの光をさすものではないかと、前向きにとらえたい。
今も昔も、高校野球は「負けない野球」をすることが上位進出のカギだとされている。そのため、どのチームの指揮官も、負けることを恐れる傾向にある。つまり、リスクを冒さないのだ。チームに多くの投手を抱えているというのに、結局、「エースと心中する」といって、連戦であってもエースを使い続ける。
成長期にある高校生にとっては、疲労がたまり、その中で、全力投球をしなければいけないというのは、非常に過酷である。過去、何人の投手が連投を強いられ、選手生命を減らしたことか。読者も、想像できるはずだ。
今大会でも、連投ではないが故障で万全ではない投手が体に無理強いをして、マウンドに立っているのを見た。指揮官は「選手のため」と合言葉のように口にするが、「負けたくない」のは指揮官自身であり、選手の将来など、頭にはない。
履正社の継投に話を戻すと、3人の分業制はリスクが伴うとはいえ、一人の投手に負担をかけすぎないという利点がある。絶対的なエースの存在は、控え投手に登板機会さえ与えられないということがあるが、3人制では、当然、一人への負担は軽くなる。170球を一人で投げるのと、3人で170球を投げるのとでは全然違う。ましてや、勝ち上がっていくにつれて連戦はあるし、春は寒さ、夏は暑さとの戦わねばならないのだ。分業制であれば、その負担がなくなる。
多くの投手が経験を積むことができ、さらに、一人への負担を軽くすることができるのだ。
履正社は3人の継投だが、チームによって2人で分けることもできる、あるいは4人で分けることもできる。そうなっていくだけでも、大きく違わなくはないだろうか。
また、競争という相乗効果も、分業制では生まれてくる。
「誰しもがエースナンバーをつけたいと思ってやっているというのはありますけどね、それぞれが責任感を持ってやれば、いい競争にもなると思います」と岡田監督は言う。
事実、先発した東野とエースの東は、ともに左腕で同タイプの投手だ。「昨秋は出られなくて悔しかった。秋は東に頑張ってもらって、春は自分が投げるつもりでいた」と東野が言えば、東も「(東野の台頭で)負けられない気持ちが強くなった」と話している。
継投にはリスクがある。だが、それはあくまで「負けない」野球を実践することを目的した場合での言葉だ。指揮官が負けることを恐れず、選手の体のコンディショニングを頭に入れて、起用法を考えられるのであれば、できないことではない。「打たれたら、監督が責任を負えばいいわけですから」(岡田監督)という気概が指揮官には必要なのだろう。
履正社がこの試合で取った継投策は、あくまで戦術的理由かもしれない。とはいえ、この戦い方で勝ち上がり、投手陣が疲労感を見せることなく戦い続けることができれば、この発想もクローズアップされていくはずだ。
選手のコンディショニングを気遣うことを前提にしながら、勝利を目指す。今の高校野球界に、ひとつの風となってはいかないだろうか。
(文=氏原英明)