試合レポート

塔南vs大谷

2011.05.07

塔南vs大谷 | 高校野球ドットコム

搭南 駒月仁人(4番キャッチャー)

成長の跡

『うまいリードだ』
見ていて思わず唸ってしまった。搭南の捕手・駒月仁人(3年)のことである。

搭南は昨年秋の府大会優勝校。しかし、近畿大会では初戦で報徳学園(兵庫)にコールド負けを喫した。
当時、[stadium]紀三井寺球場[/stadium]で、先制タイムリーとライトスタンドへの本塁打を放っている駒月。そのパワーと打撃の技術は近畿の高校球界でもトップクラスだ。ただし打撃の印象が強すぎて、リード面に関してはあまり印象深く残ってない。

それから半年あまり。この日の準々決勝では大谷と対戦した搭南。
マウンドにはエース粟津達也(3年)、そしてマスクを被るのは駒月。奥本保昭監督は「今日は絶対に勝ちたかった」と信頼するバッテリーを送り出した。

だが、そのエース粟津は絶不調。前日から体調を崩していたという右腕は、微妙な制球が悪く「もっとインコースを使いたかった」という駒月の思惑は外れることになった。4回まで7安打で4失点。粟津は打たれた。

エースが不調の時こそ捕手の真価が問われる。内角を思い切って使えず、苦心のリードになるかと思われたが、駒月は冷静だった。
必然的になる外角中心のリード。こう書けば簡単なように見えるが、駒月は実によく考えていた。

 ただ外角に構えるのではない。内角に構えたように見せかけてサインは外角。あるいはその逆もある。『とにかく打者に考えさせたい』その意思が駒月の動きに表れていた。
そのことを試合後に聞いてみると、「それはいつも意識しています」。
その後の言葉にも驚いた。
「(成長したと思うのは)視野が広くなったと思います。バッターを見ることと、ネクストも見ること」。

打者を見る。捕手にとっては重要な要素。それ以上に駒月は次の打者のネクストバッターズサークルでの動きを観察しているのだ。ネクストでの何気ない動き、素振りの様子。それが全て情報となる。
事前のデータやVTRだけではわからなくても、ネクストで気づく。それが駒月の言う「視野の広さ」ということなのだろう。次の次まで観察することで、目の前の打者にどう攻めるのかも変わってくる。イニング全体、試合全体を考えて投手と野手を〝マネージメント〝すること。高校生では中々できないことなのだろう。
奥本監督は、「(駒月は)自分がこう攻められたら嫌だなとか、そういうことを考えてリードしている」と成長の跡を話してくれた。


塔南vs大谷 | 高校野球ドットコム

駒月(搭南)

さて、この試合の大きなポイントも駒月の打席だった。
場面は7回のこと。搭南は先頭の2番上山凱武(3年)が相手のエラーで出塁した。打席は3番の笠舞一騎(3年)。大谷の青木翼(2年)と末國圭祐(3年)のバッテリーは、当然送りバントを頭に入れていたはず。

得点差は1点。ここで何としても追加点がほしい奥本監督が取った策は、笠の1球目で上山を走らせること。バントの構えを見せていた笠はバットを引き、上山は見事に盗塁成功。大谷バッテリーの上を行った。
その笠はレフト前ヒットで1、3塁の場面を駒月にプレゼントした。

タイムを取って相談する大谷バッテリー。もし、送りバントによる1死2塁なら駒月を歩かせる選択肢はあっただろう。しかし、無死1、3塁でその次が5番の粟津だということを考えると、ここでは勝負せざるを得ない。バッテリーはやはり勝負を選択した。

ストライク、ボール、ファウルの後の4球目。駒月が「狙っていた」というスライダーが甘く入って来た。迷わず振り抜くと、打球はセンターの頭上を超える二塁打。上山と笠が生還しリードは3点に広がった。

不調に苦しむエースの球を受けてきた女房役。「ここで打って決めたかった」と喜んだ。
8回にも1番向原翔(3年)の犠牲フライで4点差とした搭南。駒月のリードに立ち直った粟津は、5回以降1安打しか打たれなかった。

試合後、自身も前日に38度台の熱を出していたことを明かしてくれた駒月。
でも、「試合に集中していたので」とサラッと言ってのけた。根性も大したものだ。

奥本監督の「何としても勝ちたかった」という言葉の裏側。このわかさスタジアムであと2試合戦えることにある。
それだけに、この日エースを完投させての勝利は格段に大きいものだった。

(文=松倉雄太

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.06.08

慶應義塾が15安打12得点で強打健在も投手陣に不安 先発小宅は5回途中で降板【香川招待試合】

2024.06.08

慶應義塾は昨夏甲子園優勝バッテリーがスタメン!初回から4番・江戸 佑太郎の1発などで3点を先制!【香川招待試合】

2024.06.08

夏の神奈川に集った逸材野手20人! 横浜、東海大相模、桐光学園を中心に全国トップレベルが揃う【神奈川注目野手リスト】

2024.06.08

慶應義塾が四国王者の高松商、英明に連勝!!<香川招待試合>

2024.06.08

昨年春夏甲子園出場・北陸の卒業生進路 エースは筑波大へ! 早速公式戦で上々のデビュー

2024.06.04

神村、鹿実の壁を破れ! 国分中央は「全力疾走・最大発声・真剣勝負」で鹿児島の頂点を狙う

2024.06.08

慶應義塾が15安打12得点で強打健在も投手陣に不安 先発小宅は5回途中で降板【香川招待試合】

2024.06.05

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在36地区が決定、徳島の第1シードは阿南光!第2シードに池田!<6月5日>

2024.06.06

大阪桐蔭が選抜ベスト8の阿南光ら4チームと対戦!<招待試合>

2024.06.04

【東北】5日に抽選!秋春連覇がかかる青森山田、雪辱期す仙台育英と明桜の対戦相手に注目<地区大会組み合わせ>

2024.05.21

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.05.15

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.05.21

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在33地区が決定、岩手では花巻東、秋田では横手清陵などがシードを獲得〈5月20日〉

2024.05.13

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在29地区が決定、愛媛の第1シードは松山商

2024.05.19

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在30地区が決定、青森では青森山田、八戸学院光星がシード獲得