川之江vs八幡浜
NPB注目の右腕・大西翼(川之江)
“破った壁。川之江・大西翼、覚醒の瞬間。”
「144キロ」。
5回、突然スコアボード上にたたき出されたその数字は県大会準決勝(夏は準々決勝)からスピードガン掲示される坊ちゃんスタジアムでは、秋山拓巳(西条→阪神タイガース)、平井諒(帝京第五→東京ヤクルト)以来、久々となるスピード計時であった。
その主は川之江のエース右腕・大西翼(3年)である。あまりにも不用意なボークで八幡浜に2点を与えた直後、
「これ以上点はやれないし、中途半端なまま味方の攻撃につなげたくない」思いで目一杯腕を振った彼の剛球は、その後も試合終了まで140キロ台を連発することに。
これまでは「いつでも140キロは出ると思っていた」(高橋龍之介捕手)にもかかわらずその壁を公式戦で破れなかった大西翼だったが、昨年の練習試合にてコールドで敗れるなど意識していた八幡浜・菊池大樹(3年)との対戦で、ついにその壁を破ったのである。
それに刺激されるように菊池も「セット時にプレートの使い方を変える」(中岡隆児監督)高等技術を駆使して常時130キロ台後半、8回には自己タイの140キロ台をマークする見事な投球。
試合はお互い守備にややミスが目立つシーソーゲームの末、10回に3番・山西佑哉(3年)が放ったサヨナラヒットで川之江が初の春季四国大会出場を決めた。覚醒を果たした両エースの存在はその中でも一層の輝きを示した。
川之江はその後、三島を下し春季愛媛大会初優勝。
「負ければ高校野球生活が終わるという、もっともっと怖い中で野球をやらなければならない」(八幡浜・中岡監督の選手への話より)夏の闘いへ向け、2人の「壁を破る」ための挑戦はまだまだ続いていく。
(文=寺下友徳)