試合レポート

武蔵台vs筑陽学園

2011.03.24

武蔵台vs筑陽学園 | 高校野球ドットコム

得点に盛り上がる武蔵台ベンチ

同じ方向を向いて

 昨秋の九州大会に出場した筑陽学園高校(福岡県大会3位)。対するのは、県立武蔵台高校。ちなみに同九州大会予選福岡南部大会では3回戦敗退である。

武蔵台の八塚監督でさえ「相手は九州大会の出場校ですから、胸を借りるつもりで頑張ります。」と試合前に言われていた。
誰もが、予想していた結果は同じだっただろう。

誰もがこのような結末になるとは思っていなかっただろう。

1回表武蔵台は1アウトから2番石貫が四球を選び出塁するも、牽制死。続く野村も死球で出塁するも牽制死。序盤3回までで、4人も牽制死になった。

「リズムをつくるのは、守備から」
とはよく言われる言葉である。

 2回までを、武蔵台先発の小林が内野安打1本の出塁に抑えた。

 3回表、先頭の7番樋口が内野安打で出塁するも牽制死(先述の通り)一瞬チームに嫌なムードが漂うが、2アウトから9番水本がヒットで出塁。続く小谷のヒットと外野のエラーの間に2点を先制する。

 武蔵台はショート水本の好捕もあり、4回裏を三者凡退で切り抜ける。

 「リズムを作るのは、守備から」

 5回表の先頭は、好捕を見せた水本。センター前にヒットを放つ。筑陽学園先発の三宮のワイルドピッチもあり、1番小谷のタイムリーで追加点を挙げる。

 この試合、どちらもスタンドではベンチに入れなかった多くの選手が応援をしていた。スタンドから、グラウンドの選手へ向け多くの声が掛けられていた。

 「落ち着け!」「切り替えろ!」はもちろんのこと「おい!ピッチャーが一番孤独ぞ!しっかり声かけて!」といった声掛けまでされていた。

 ここで先発三宮に代わり、背番号1の黒川ラフィがマウンドに上がる。スタンドからは「(黒川)ラフィーなら行けるぞ!」という声も聞こえた。
 この回、エラーも絡み武蔵台は3点を
追加する。


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リリーフ登板した黒川(筑陽学園)

 5回裏が始まる前、筑陽学園は円陣を組み「ゴロ打ちを意識しよう」と確認し合っていた。4回が終わった時点で12個のアウトのうち7個がフライアウトだった。

5回裏筑陽学園は先頭の松尾はセカンドゴロでアウトになるも、7番荒木が四球で出塁。8番古賀(隆)9番黒川の連続長短打で1点を返すと怒濤の攻撃が始まる。二番手野中から青山が四球を選ぶと、2番安枝がタイムリー、今泉の犠飛、4番内野のタイムリーで一挙5点。同点に追いついた。
内野の当りは、フライのようにも思えたが、陽が傾き影が伸びてきたせいで打球をうまく処理できずにヒットになってしまった。

これで、試合は5-5の同点、振り出しに。

7回表、武蔵台は3者連続安打で1点を追加。裏の守備では、レフト八尾が好返球を見せ同点を防ぐ。8回表には、四球で出塁したのを皮切りに押し出し、タイムリーで3点を追加し、9-5。流れは完全に武蔵台かとも思えた。

 ただ、これで終わらないのが筑陽学園。1アウトから7番荒木が三塁打で出塁。続く古賀(隆)のタイムリーで1点を返す。

 もちろん、武蔵台も終わらない。9回にも相手のミスを生かして10点目をとる。

 9回裏、筑陽学園の攻撃。両チームともに勝ちを信じベンチ、スタンドが声を出す。鳴り物を自粛した試合ということを忘れるほどだった。

 継投を重ねながらも3四死球、0アウト満塁から6番松尾にタイムリーを打たれる。
続く無死満塁…アウトが取れない…

さらに7番荒木にも四球を与え、押し出しで10-8。武蔵台の投手は6人目清田に代わった。二者連続三振。球場がどっと沸く。最後の打球がライトへ上がりクラブに収まった瞬間、さらにどっと沸いた。


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気持ち一つに空を見あげる武蔵台ナイン

公立高校が全員野球で強豪に勝った瞬間だった。

試合後に、
「みんなたいしたことない奴らなんです。だから、ひとつになっていくしかないんです。」

そう言われた八塚監督に、私は一つの質問をした。試合中気になっていたこと。
「ピンチの時、マウンドに集まり全員で空を見上げていたのは、何かあるのですか?」
と。

「彼らなりのリラックス法なんでしょうが…ただ、ひとつ言えば僕がいつも彼らに言っていること。『みんなで同じ方向を向いて行きなさい』それを彼らなりにやっているのでしょうね。」
そう言って選手たちを眺める監督の顔にも、ホッとした表情が見られた。

次は、同じ県立の早良高校との試合。

「同じ方向を向いた」武蔵台ナインが全員野球を見せる姿が今後も楽しみである。

(文・撮影=鎌倉 彩

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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