11人全員が移籍or引退　ダルビッシュ有、涌井秀章ら86年世代ドラ1の現在地

　野球の世界には「松坂世代」を始め、有力選手が集まった世代を「〇〇世代」と形容する流れがある。毎年12名のドラフト1位が生まれるので、平均すれば各世代に12名のドラ1がいることになるのだが、多い世代、少ない世代というのが出てくる。そこで世代別にドラフト1位を集計し、その現在地を見ていきたい。今回は高卒16年目、34歳を迎える86年世代だ。

高校時代のダルビッシュ有と涌井秀章

　86年世代でドラフト1位指名を受けたのは、高卒4人、大卒5人、大卒社会人2人の計11人。彼らの主な通算成績は以下の通り。

＜2004年高校生ドラフト＞

ダルビッシュ有（東北・北海道日本ハム・レンジャーズ・ドジャース・カブス）　単独指名

NPB　167試合　93勝38敗　1ホールド　1268.1回　1250奪三振　防御率1.99

MPB　170試合　63勝53敗　1051回　1299奪三振　防御率3.57

涌井秀章（横浜・西武・千葉ロッテ・東北楽天）　単独指名

417試合　133勝128敗　37セーブ16ホールド　2315.2回　1688奪三振　防御率3.51

江川智晃（宇治山田商・ソフトバンク）　単独指名

345試合　26本塁打　99打点　3盗塁　打率.235

※指名時はダイエー、入団時はソフトバンク

佐藤剛士（秋田商・広島東洋）　単独指名

1試合　0勝1敗　2.1回　1奪三振　防御率34.71

＜2008年ドラフト＞

松本啓二朗（千葉経大付・早稲田大・横浜）　2球団競合

302試合　7本塁打　45打点　5盗塁　打率.235

岩本貴裕（広島商・亜細亜大・広島東洋）　単独指名

405試合　31本塁打　131打点　1盗塁　打率.253

大野奨太（岐阜総合学園・東洋大・北海道日本ハム・中日）　単独指名

891試合　31本塁打　168打点　3盗塁　打率.214

巽真悟（新宮・近畿大・福岡ソフトバンク）　外れ1位

24試合　1勝4敗　54回　39奪三振　防御率7.50

蕭一傑（日南学園・奈良産大・阪神・福岡ソフトバンク・義大ライノズ）　外れ外れ1位

NPB　2試合　0勝1敗　8.1回　7奪三振　防御率2.16

CPBL　82試合　6勝9敗　5ホールド　155.2回　102奪三振　防御率4.80

＜2010年ドラフト＞

須田幸太（土浦湖北・早稲田大・JFE東日本・横浜）　外れ1位

166試合　16勝19敗　1セーブ37ホールド　309回　217奪三振　防御率4.81

榎田大樹（小林西・福岡大・東京ガス・埼玉西武）　外れ1位

232試合　28勝24敗　3セーブ60ホールド　499回　405奪三振　防御率4.11

※球団名は入団時

　高卒組4人のうち、ダルビッシュ有、涌井秀章は球界を代表する投手へと成長を遂げた。いずれも1年目から一軍公式戦に先発し、勝利を挙げている。ダルビッシュはNPBでの7年間で最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率、沢村賞などタイトルを総なめ。さらにMLBでも最多奪三振を記録するなど、日米通算156勝を挙げている。涌井はこれまで3度の最多勝に沢村賞など、こちらも数多くのタイトルを獲得している。2012年には30セーブを記録するなど、先発・中継ぎの両方で結果を残してきた。今季から自身3球団目となる東北楽天へ移籍し、心機一転4年ぶりの二桁勝利を目指したい。

　ドラフト時には投手として指名を受けた江川智晃は、プロ入り後は野手に転向。将来の主軸候補として期待され、2013年には77試合で12本塁打を放った。レギュラーに定着することはできなかったが、右の代打として活躍を見せ、昨季現役引退。現在は球団スコアラーを務めている。秋田商時代には、当時の高校生としてはまだ数少ない「150キロ」を武器とした佐藤剛士だったが、プロ入り後は1試合登板に留まった。

　大卒組では大野奨太が頭一つ抜けた活躍を見せている。1年目から77試合に出場するなどコンスタントに出場を続け、2017年オフにはFA移籍で中日へ。移籍後は満足な結果を残せずにいるが、経験が生きる捕手というポジションなだけに、今後も貴重なベテランとしてチームの戦力となりたい。

　岩本貴裕は2年目に14本塁打を放つなど、左のスラッガーとして将来を期待された。しかし故障などもあり成績を伸ばすことはできず、近年は代打としての出場がメインに。昨オフ現役を引退し、現在はスコアラーを務めている。高校3年夏の甲子園ではダルビッシュに投げ勝った松本啓二朗は、早稲田大を経てプロ入り。5年目には72試合に出場したが、レギュラー定着はならず。2017年に戦力外通告を受け退団した。その後は社会人野球の日本製鉄かずさマジックで現役を続けている。

　近畿大3年春にはノーヒットノーランを達成するなど、150キロに迫るストレートで活躍を見せた巽真悟だったが、プロ入り後は制球難に苦しみ24試合で1勝に留まった。NPBでは2試合で未勝利に終わった蕭一傑（しょう・いっけつ）は、母国台湾のCPBLでは82試合に登板し6勝を挙げた。現在は未全ドラゴンズのコーチを務めている。

　大卒社会人の二人は、異なる舞台でともに現役をつつけている。榎田大樹は阪神では主に中継ぎ投手として活躍したが、2018年に埼玉西武に移籍すると先発ローテーションに定着。自身初の二桁勝利を挙げ、優勝に貢献した。昨季は故障もあり成績を落としたが、今季は復活の期待がかかる。

　須田幸太は横浜DeNAの中継ぎとして活躍を見せた。2016年にはチーム初のクライマックスシリーズ進出にも大きく貢献。故障の影響もあり2018年オフに戦力外通告を受け退団したが、その後は古巣のJFE東日本に復帰。昨年の都市対抗野球大会で優勝に貢献し、MVPにあたる橋戸賞を受賞した。なお、同大会では補強選手として加入していた松本啓二朗とチームメイトになり、大学、プロ、社会人でともにプレイすることとなった。

　既に11人中7人がプロ野球を去った86年世代のドラ1選手たち。プロ入り時の球団で現役を続ける選手も0人だ。しかし、須田や松本のように社会人野球の舞台で活躍したり、スコアラーやコーチとして野球に関わるセカンドキャリアを歩む者も多い。彼らが一年でも長く、野球界で活躍し続けることを願いたい。

記事：林龍也

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