オコエ 瑠偉選手 (関東一)
短評
観戦レポートより抜粋(2015年8月11日) バックネット裏に並んだ各球団のスカウトたちの顔がどこか上気しているように見えた。関東一の1番・オコエ 瑠偉の高校生離れしたプレーを見た直後のことだ。もう少し細部にこだわってみよう。 まず第1打席の1回裏、一塁線を抜こうかという鋭い打球を放った。これを一塁手がグローブに当て逸らし、打球がコーチャーズボックスのほうへ転がっていくとオコエは猛然と二塁へ向かっていく。この程度の後逸で二進するとは思わなかったので、私はストップウォッチのストップボタンを押してしまった。あとで楽天の後関昌彦スカウト、ソフトバンクの永山勝スカウトに二塁到達タイムを聞くと、やはり一塁で止めてしまったという。プロの目利きでも二塁へ進むとは思わなかったのである。ちなみに、一塁到達タイムは4.37秒。そこからさらに加速しているので二塁到達が7秒台であったことは想像に難くない(7秒台の二塁到達は十分、俊足の部類である) 3回裏には先頭打者として打席に立ち、2ボールからの3球目を右中間に弾き返す。この打球は走りを止めるまで絶対にストップボタンを押すまいと心に決めた。そして、オコエが三塁ベースに滑り込んだ瞬間ストップボタンを押し、デジタル画面を見ると、そこには「10.75」という数字が表示されていた。 楽天の後関さんは他のカウトたちが盛んに「10.8」という数字を口にしているのを聞いている。10.8秒台、ということである。ストップウォッチ持参で観戦している友人の服部さんの計測タイムは私と同じ10.7秒台だったという。 この「10.75秒」がどんな数字かというと、私が2002年8月以降、4000試合近く観戦した中で最高タイムである。これまで荒波翔(DeNA)たちが達成してきた三塁打を放ったときの三塁到達11秒切り。今年は明治大のドラフト1位候補、高山 俊が10.88秒というタイムを計測して驚かされた。それほど“11秒切り”はアスリート型選手にとっては貴重で、プロ・アマを超えて高く評価されている。 私が計測した中でナンバーワンタイムは2年前、中学生だった五十幡 亮汰(現・佐野日大)が記録した10.76秒。中学生だと思ってバカにしてはいけない。このタイムを計測したあとに出場した全国大会で五十幡は100、200メートルで優勝しているのだ。同大会に出場していたサニブラウン・ハキームは3位、2位。これだけ見ても五十幡の快足が尋常でないことがわかる。それをわずか100分の1秒だが、オコエは上回ったのである。私にとっては五十幡の記録は永遠不滅だと思っていたので、「10.75」の表示を見た瞬間、涙が出そうになった。 ソフトバンクの山本省吾スカウトは「二塁を回ってから5歩くらいで三塁に行ったみたいに見えましたね」と笑った。後関さんは「次にどんなプレーを見せてくれるのか、というのがスターの要素でしょ。オコエは十分その要件を満たしていますよ」と語った。 日本ハムの吉村浩GMに「1位で指名されるでしょう」と誘導質問すると「段々、評価が上がってきていますね」と言ったあと、「打者に転向したあとの糸井(嘉男)も速かったけど、速さだけならオコエのほうが上かもしれないですね」を話してくれた。 オコエの魅力は足だけではない。3安打、4打点したバッティング、さらに三塁走者のタッチアップを思いとどまらせたセンター定位置からの強肩など、どこから見ても今のオコエオに死角・弱点は見当たらない。もの凄い選手が甲子園に現れた。
更新日時:2015.08.12
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