山下 翼選手 (九州学院)

山下 翼

球歴:九州学院

都道府県:熊本

ポジション:外野手

投打:右 / 両

身長:173.0 cm

体重:66.0 kg

学年:卒業

寸評

(10/08/16 第92回甲子園大会 vs鹿児島実(鹿児島)より)  スピードスターの誕生だ。  とにかく速い。そして、思い切りがある。  3回の九州学院の攻撃。2死二塁から二塁走者の山下翼は、萩原英之のライト前安打で迷わずホームに突っ込んだ。このときのタイムが強烈。バットにボールが当たった瞬間のインパクトからホームベースを踏むまで6秒55。甲子園での二塁からホームまでセーフの基準は7秒00以内だから、それをはるかに上回る。5回1死二塁でも萩原のライト前安打で再び本塁に突入。アウトにはなったものの、6秒68を記録した。文句なく今大会ナンバーワンだ。  二塁からホームへのタイムを縮めるためには、いくつかのポイントがある。まずはリード幅。次に第二リード、その次にスタート。そしてコース取りだ。  山下はリード幅が広いのはもちろん、第二リードでかなり大きく出る。二、三塁間の三分の一程度まで出るのは当たり前。それ以上出ることも珍しくない。 「ピッチャーだけ見てれば、(第二リードで)どれだけ出られるかわかります。自分の中で感覚があるので」  だが、それ以上に驚かされたのがコース取り。山下は二、三塁間のほぼライン上を走り、ほとんど直角に近い角度で曲がるのだ。 「大きく回るより直角の方が速いじゃないですか。そういう練習はしてないんですけど、いつも意識しています」  工夫をしているのは曲がり方。直角に行こうとするとベースを回る際にふくらんでしまうため、ふくらまないようターンするときに体をひねるようにしている。イメージとしては、右肩を入れ、体全体を一気にホームへ向ける感じだ。左足でベースの角を踏むのが理想だが、そこにはこだわりすぎない。 「こだわると遅くなるので、それはスタートした後に考えます」  アウトになった場面はまだ1死。ライトは投手から回っていた強肩の用皆峻で、萩原の打球も強かっただけに無理する必要はなかったが、本能で突っ込んでいた。 「暴走ですね(笑)でも、アウトになった後も先輩が『OK、OK』と言ってくれるのでやりやすいです」 50メートル走は5秒8。河浦中時代は100メートル走で熊本県大会2連覇の実績もある。中学3年では11秒2を記録。県内陸上界では有名な存在だった。 「野球は県大会も行ったことがない。無名中の無名です(笑)陸上は個人競技なので面白くない。喜びをみんなで味わえる野球の方がやりたかった」  とはいえ、塁上に出れば自慢の足がうずく。この日も一塁に出た二度とも、次打者の初球に盗塁を敢行した。 「サインがなくても常に行く気でいます。自分の場合、スタートが遅れても足でカバーできる。焦ったら負けなので、焦らずに『スタートが遅れてもいい』という感じでいます。そしたら楽になるので」  ふたつめの盗塁を決めた際のスタートから二塁到達までのタイムは「スタートが遅れました」と言いながら3秒16。現在の日本球界で最速といわれるロッテ・荻野貴司が3秒0台だから、驚異のスピードだ。ちなみに、高校生投手のクイックは平均1秒1~1秒2台。捕手の二塁送球タイムは2秒1台。合計すると3秒2はかかる計算だから、山下の盗塁を刺すのはよほどの強肩捕手でない限り、不可能に近いということになる。  だが、そんな山下も盗塁で悩んだことがあった。高校入学後、現在まで公式戦で唯一盗塁を失敗したのが昨秋の1年生大会の東海大二戦。特に強肩というわけではない捕手に刺されたことで、“走塁イップス”になってしまった。 「同級生に刺されたことがショックで……。足が回らず、スタートが遅れたのが原因だったんですけど、その後は2、3球目までスタートが切れない状態でした」  行くぞ、行くぞと気持ちばかり焦って、スタートが切れない。そんなとき、吹っ切れたのが坂井宏安監督の「逃げちゃいかん」という言葉だった。自分の持ち味は足。オレの足なら大丈夫。普通に走りさえすればセーフになる。そう気持ちを切り替えてからは楽になった。「スタートが遅れてもいい」と思えるようになったのは、その経験があるからだ。もう、アウトにならない自信はある。 「人と同じは嫌」とメッシュ性でマジックテープの軽いスパイクを使用する山下。道具からも、少しでも速く走りたいという気持ちが表れている。 「強打者とか、豪速球を投げる選手ばかり注目されるじゃないですか。だから、足で目立ちたい。もっと有名になりたいんです」 「日本一足の速い高校球児は自分です」と豪語するスピードスターはまだ2年生。どこまで速くなるのか。この先も目が離せない。
更新日時:2010.08.17

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